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フィリピン海 5/29/2003

高本淳

「ドルフィン3K」によるマリアナ背弧海盆調査について(速報)

――平成15年5月29日 科学技術庁海洋科学技術センター

 海洋科学技術センター所属の無人深海探査機「ドルフィン3K」はロタ島西方のマリアナ背弧海盆中に新たに数カ所の湧水ポイントを発見、さらにその周囲で数万尾規模のレプトケファルスの群れを確認した。レプトケファルスは孵化した直後のウナギの幼生であり、このように大量の群れが見つかったことでこれまで謎とされてきた日本ウナギの産卵場所はこれらの冷湧水ポイント周辺の水深2500メートル前後の深海底であることがほぼ確実になった。もともと90年以降、いくつかの捕獲例からウナギの産卵場所はマリアナ諸島西側海域のどこかと予想されていたが決定的なデータに欠けるためそのポイントを確定することはできなかった。さらに栄養に乏しい外洋環境でレプトケファルスが何を餌として生きているのかも謎とされてきた。しかし湧水に含まれる深海プランクトンが幼生によってさかんに捕食されている様子が「ドルフィン3K」のカメラをつうじて観察されたことで謎の一端が解明された。これらのプランクトンは硫黄や硫化水素などを利用して代謝する特殊なバクテリアを体内共生させていると考えられる。そうした毒性物質がレプトケファルスの血中に取り込まれないのか、あるいは幼生自身が身体から排出しているのかなど多くの点はいまだ謎であるものの、同様な非マグマ的な拡張にともなう冷湧水地帯は太平洋全体で数多く分布し、深海は場所によって豊富な海産資源を産するらしいという事実がいまや次第に明らかになりつつある。今回新たに得られたデータは海洋技術センターから彗星核落下に備える国際民間組織である海洋シェルター設置委員会に送られ、その計画の推進にいっそうの弾みをつけるものと思われる。
 なおこの発見後まもなく当海域における時化のために「ドルフィン3K」の二次ケーブルが破断するという事故があった。このためレプトケファルス幼生の捕獲サンプルとともにビークル本体が流失しており、現在調査船クルーによる懸命な捜索がおこなわれている。

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