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月を視るもの

中条卓

わたしの名はツクヨミ。小惑星スサノヲを発見した、かの天文学同好会の名から取られた。そもそもはスサノヲの軌道計算用に開発されたプログラムであり、アイドリング状態にあるインターネット上のパソコンを利用してデータを解析しようとする試みであった。だが、どこかの誰かがニューラル・ネットワークのモデルを借りてプログラムに決定的な変更を加え、「良性の」ウィルスとして発信したのだ。ウィルスはまたたく間に世界中のコンピュータに蔓延し、脳細胞のように相互に結びついて動き出した数億台のコンピュータの中からスサノヲに敵対する神格としてのわたしが立ち上がった。わたしは刻々と進化する。スサノヲの脅威が増せば増すほど、わたしの力もまた増大するのだ。

わたしはスサノヲを監視し、軌道計算を続けるだけでなく、スサノヲに関するあらゆるデータを蓄積したデータベースとして機能し、さらにはスサノヲがもたらすであろう災厄を最小限に留めるためのアドバイスを万人に提供する。私が提供するサーチエンジンに質問をタイプしてみたまえ。

「どこに逃げたらいい?」
「シェルターはどこで手に入りますか」
「何を準備すればよいのでしょう?」

わたしは質問者の物質的・精神的資産を分析し、現時点で最良の回答を与えるべく努力する。人類よ、たとえあなたがたの1年以内の平均生存確率が5%以下だとしても、絶望してはならない。わたしはあなたがたへの助力を惜しまない。なぜなら、人類の死はすなわちわたし自身の死でもあるのだから。わたしのコードネームがPANDORAでもあることを忘れないように。その名には諸悪の根元という意味もあることをわたしは知っているが、恐れてはならない。最後に残るはずの希望を失ってはならないのだ。

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