ニートであるしんどさは基本的に先の見通しがまるでたたないことからくる。でもスサノヲが墜ちれば地道にやってきた他の連中だって結局は自分といっしょ――せっせと積み重ねてきた人生設計がすべてリセットされてしまう。いやむしろ現実の問題に追い回されることがないだけこっちが有利かも知れない。インパクト後の状況について暇にまかせてあれこれ思い描けるのだから……。
ただ収入のない佑にとって必要な機材をそろえるのが経済的にかなりきびしいのも事実だ。もしネットオークションがなかったら『計画』の存在そのものすら危ぶまれたにちがいない。年式落ちの中古品を根気よく探しだし、虎の子の貯金を最大限有効に使うことで彼はこつこつとモバイルグッズを買い集めてきた。
携帯式の太陽電池板、手回しのハンディ発電機、各種接続ケーブル……インパクトの脅威で一時営業停止していた衛星携帯システムサービスも息をふきかえした。端末そのものはさすがに高値どまりしているが――まあまだ八ヶ月ちかくある。なんとかなるだろう。
内側から鍵をかけた狭い自室いっぱいに広げられたそれらの機器とプリントアウトしたチェックリストを見比べながらしかし佑はいまひとつ確信をもちきれずにいた。物理的なものじゃない。問題は心――いよいよというとき自分は果たして家族ときっぱり別れられるのだろうか?
――いや、やっぱり『閉じこもり』を続けてきた者が避難先で大勢の見知らぬ人たちと一緒に共同生活するなんてできっこない。選択の余地なんてありはしない……。
唇を噛みなかば無意識に佑はパソコンをたちあげた。生き残るために何をしたらいいのか?――問いかける者すべてに具体的で的確な指示をあたえてくれる存在がそこにはいつもあった。新規受信メールが軽い警告音とともに開き、新着リストに見慣れたハンドルネームをみつけて彼はほっと微笑んだ。
――『From : TSUKUYOMI』
もはや不安を忘れ、佑は熱心に到着した新しいメッセージを読みはじめた。
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