とむらいの鐘を鳴らすのは、わたしの役目です。
真の統率者であらせられた、道を知る者ゆんゆんれのんさま。
これで、あの日を憶えている者は、わたしたちの集団には誰もいなくなりました。
でも、わたしのまたいとこ、過去を語る者らんらんりりーとその子孫が、必ずやあなたがお聞かせ下さった昔の地球の物語を、語りついで行くことでしょう。
彗星衝突より始まった狂気と混乱の世を渡り、この水の時代のいかだの上に我々を導いて下さった、道を知る者ゆんゆんれのんさま。
わたしは、あの運命の日に立ち会われたれのんさまと、同じ歳になりました。
れのんさまがわたしと同じ年頃だった100年前、地球には学校というものがあったと聞いています。いろんな種類の学校があり、昔の子供は何年もひたすら学び続けたのだそうです。
学校って、いったい、どんなところだったのでしょう。
わたしは、いま、一日の始まりを知らせる鐘を鳴らし、正午の休息の鐘を鳴らし、つがった男の首をはねる合図の鐘を鳴らし、新生児の誕生を祝福する鐘を鳴らし、とむらいの鐘を鳴らすかたわらで、こっそり、こんなあそびをしています。
自分が、毎日、中学校というものに通っていることにするのです。
いかだの最上階に座って鐘を細砂で磨きながら、じぶんが、中学校にむかって、固い地面、たしかアスファルト舗装道路とかいうものの上を、歩く所を想像してみます。
まもなく、中学校の校舎と、校舎の前に広がる固く乾いた校庭という広場が見えます。
そうすると、わたしは、なんとなくうれしくなって、走り出します。わたしのそばにはたくさんの友だちという仲間もいて、みんな、しあわせそうに笑いながら校庭を走り抜けます。
それから、校舎の中に入ります。校舎の中には、沢山の部屋があります。部屋の中には、イスと机があります。好きな部屋を選んでイスに座って待っていると、先生が来るのです。先生は、威厳があり、いろんな話を知っていて、わたしたちに、知恵と勇気と希望をさずけてくれます。
そんな本物の中学校を、一度でいいから見てみたかったです。
わたしも、うんと昔に生まれていれば、中学校に行けたのに。
でも、いまこのいかだの上にいる現実のわたしは、ただの、鐘をつく者みんみんまりーでしかありません。
だから、ゆんゆんれのんさま、あなたのために鐘を鳴らします。
れのんさまが、あんなにも待ちこがれていた、あの世への旅立ちを祝って。
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