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教えの山

中条卓

何代も前からリグの一族はその山を登り続けてきた。

先祖は狩りに出て道に迷い、その山の麓にたどり着いたのだという。それは山というよりは巨大な岩の塊で、草もコケも生えないその表面に教えが刻まれていたのだ。先祖は文字というものを知らなかったが、最初の教え〜遠くまで正確に矢を射られる弓の図〜を読み解いて最強の狩人となったのだった。

それ以来、一族の中で最も聡明な男女が教えを読み解くためこの山を登るならわしとなった。満月の夜には一族の長からリグたちのもとへ、ひと月ぶんの食料を携えた使いがやってくる。使いはしばらく「登る者たち」のもとに滞在し、暮らしに役立つ新たな知識を仕入れては都に戻るのだった。「登る者たち」はこの山を登りながらそこに刻まれた教えを少しずつ読み解き、自分たちの子どもに伝えていくのである。

中には役に立たない教えもあった。たとえば数代前に掘り出されて家宝となった剣は見事な切れ味で、皮でできた鎧をやすやすと切り裂くことができたのだが、その原料となるべき鉱石は広い大地のどこにも見いだすことができなかった。

はじめのうち教えを学ぶのは楽しかった。教えはよく工夫されていて簡単なものから少しずつ複雑なものが導かれていたし、随所にほうびが残されていたからだ。だが、教えの言葉を理解し教えを残した者たちの最後を知るに至って、リグの心は少しずつ重くなり、山を登る足取りも鈍っていった。おりしも山は一段と険しさを増していた。リグは学んだ、かつてこの地を支配した種族が空を飛び地下を走り海を渡る手段を持ち、一瞬で都市を溶かす巨大な炎を御していたことを。だが、見るがいい。下界の人間どもは裸同然で地べたを這いずり回り、わずかな収穫をめぐって殺し合うばかり。殺戮の星がこの世に下った時、我々は没落を定められたのではなかったろうか。

これ以上の教えは無用だ。リグは山を下り、余生を森で暮らそうと決意した。

かくて人類再教育プログラム・タイプBは第3749セクションにて中断され、この世界のどこかで細々と生き延びながら知らせを待つバイオスフェアの住民たちへのホットラインが開通することはなかった。

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