「未確認航走物体、消滅!」叫んだソナー担当係はすぐにつけ加えた。「いや……再び反応をキャッチ……約五十ノットで左舷500メートルを並走中。――驚いたな。ほぼ1海里を一瞬のうちに移動しました!」
「……飛んだんだ」艦長は内心の驚愕を押さえ冷静をよそおいつつ言った。「海面近くで不意に反応が消えた。そう考えるほかはないだろう」
「なるほど――荒っぽいが安全にスーパーキャビティーから離脱するひとつのアイデアですな。包み込んだ気泡から抜け出た瞬間に船体は超高速で海水の壁に激突することになる……そこでいったん空中に飛び上がって滑空しながら減速着水するわけです」
興奮ぎみに説明する主任研究技師をふりむいて調査船の艦長は冷ややかに応じた。
「きみたちが試験艇を何隻も壊している間に何者か知らないがあの小型艦を操る連中はスーパーキャビティー技術を完璧にマスターしてしまったらしいじゃないか?」
不満気に赤面しつつ相手は肩をすくめた。
「インパクト前でさえ超音速航走は基礎研究の段階でした。アダック・アクアサイトのどこでも実用化に成功したという話はついぞ聞きませんがね」
「じゃあ、あれはいったいどこから来たというんだ?」ふたたびソナー解析画面にあらわれた小さな影を指さして艦長は言った。「われわれ以上に高度な科学技術を所有している人間集団が地球上のどこかに存在するとでもいうのかね?」
「艦長!」二人の会話に聴音担当官がわりこんだ。「8キロヘルツ波で信号が入っています。コード化はされていません……かなり訛りのあるフランス語ですが理解できます。どうやらわれわれに向けたメッセージと思われます」
艦長と主任技師は一瞬顔を見合わせ同時にたずねた。
「何と言っている?」
「こうです……『親愛なる大平洋のお仲間に心からの挨拶を送る。インパクト以来初めてわたしたちは相まみえることになった。本艦にはアトランティス計画に属する大西洋シェルター群を代表する特命全権大使が乗船している』……」
|