吹きさらしの花崗岩台地にその塔は立っている。地中深く打ち込まれた4本の鉄柱に支えられた巨大なドームはさながら空中庭園のごとく緑したたる亜熱帯のジャングルを再現していて、樹冠を飛び交う鳥の群れを遠くから認めることができる。しかしながら近づくにつれて周囲の砂漠と同じ色に塗られたドームの基底部が視野を遮り、その真下に立てば見えるものはただ塗装の剥げかけた鉛色の円柱ばかり。資材を搬入するために使われたエレベーターの昇降口は外から溶接されて跡形もない。円柱にはドリルやハンマー、後には石でつけられた無数の傷が残っていて、あたりにはジープの残骸と人骨が散らばっている。
塔が閉ざされてから百年、地熱発電で得られる潤沢なエネルギーはドーム内を暖め、水と空気を循環させ続けた。居住に適した外部環境が整うまでの間、人類の知識と技術はこの塔に保存され、未来に受け継がれていくはずだった。だが3世代目に突如現れた狂信的な教団が反対派を抹殺してドームを支配し、「外」の記憶をすべて葬り去った。
今、ドームの中だけが世界であり宇宙であると信じる住人たちは、やがて来る終末への準備を黙々と進めている。書物を焼き払い、衣服を脱ぎ捨て、言葉を捨てるために舌を短く切った人々は猛獣も家畜もいない世界で木の葉に溜まった露をすすり果物を食べながら暮らしている。ドームの名はエデン。
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