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色鳥の丘

中条卓

新月の晩に大地が裂けて盛り上がり、新しい丘ができた。丘のわきは白黒のだんだら模様になっている。模様を眺めていたパクが叫んだ。
「あっ、トリがいる!」
「どこに?」ゼンが近眼を細めながら見上げた。
「あそこ、ほら、いちばん上の白い筋の中」
ふたりは反対側から丘に登り、てっぺんで腹這いになって白い地層を掘った。それはトリの形をした硬いもので、尾にあたる部分が細くとがっていて、胴体にたくさんの丸い穴が開いている。首と羽はなかった。いろんな大きさのものがあとからあとから出てきた。割れてしまっているのも多かったが、夢中で掘り続けているうちに完全なのを5つ見つけた。白、黒、青、黄、そして赤い色だった。

よく洗って乾かしてみるとトリの胴体は空っぽだった。
「アクリョウが入ってないかしら」黄色いトリをもらったサリが穴から中をのぞき込みながら言った。サリはよちよち歩きのころ棘から入った悪霊のせいで足が腫れ上がり、それ以来足を引きずっている。
「いや、抜け出した穴があるから大丈夫」黒くて大きいトリを手にした年かさのユバが分別臭そうに宣言した。
「ツボかなあ」青いトリを持ち上げてゼンがつぶやくと、
「何を入れるんだよ、穴が開いてるってのに」すかさずパクが突っ込んだ。革ひもで白いトリを首から下げている。
「塞げばいいじゃないか」
「あら、ちょっといい音よ」サリがいちばん大きな穴ぎりぎりの石ころを拾って中に入れ、からからと振ってみせた。
「きっとこうするんだぜ」ユバが持ち歩いているタケの棒の先にトリの首を突っ込んでみせた。なるほど、こうすると尖ったしっぽが武器になりそうだ。丸くふくらんだ胸の方は木の実を叩いてつぶすのに使えるだろう。みんなが感心した。

騒ぎから離れたところでフキはじっと赤いトリを握りしめていた。手の中で温まったトリはかすかに鼓動しているようだ。トリの心臓を探して指を這わせているうちに、すべての穴にぴったりと指がはまった。フキは生まれつき目が見えない。その代わりフキには人には聞こえないものが聞こえるのだ、とオババ様は言っていた。トリの首に唇を近づけたとき、このトリが好んで歌っていた曲が聞こえてきた。やさしいうた、やさしくてかなしいうた。フキはトリの体内に息を吹き込み、トリはそれを音に変えた。そして指が音を紡ぐ。

丘の上で赤トンボが生まれ、群れをなして飛んでいった。

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