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巡礼者たち4

高本淳

「いつまで待ってもそれが現れなかったら?」キーフの疑問に答えずブリムは地平線を見つめ続けていた。この高原地帯では昼間でも星々が大気を透かして微かに見える。
「『シチズン』たちの遺跡をさんざんほっつき歩いたあげくいまだ人間について学びつづけようってんだから……長老たちが聞いたらさぞあっぱれと感涙を流すだろうな」
 そんな皮肉にもブリムは動じなかった。「どうやら西とは違う世界がここにはあるようだ。『シチズン』を知っただけでは人間の半分しかわからない。巡礼者として是非とももう半分――『ノマド』たちの生きかたを学ばなければならないんだよ」
「でも他ならぬその『ノマド』がああした都市を破壊したあげく天空へ去っていったというよ。そんな乱暴な連中を理解できる日が来るとは到底思えないんだけどね」
「しっ、ほらあそこ……来たぞ」興奮をおさえたブリムの声につられて不満たらたらのキーフもさすがに岩かげから這い出てきた。
 荒野の彼方にぽつんと小さな点があった。それは瞬くうちに大きさを増し、まもなく見守る彼らにもこちらに疾走してくる人型サポーターの姿が認識できた。
「いやはや、なんて……速いんだ!」
 呆然と立ちつくすふたりのすぐ目の前を軽々とほとんど音もなくそれは通り過ぎ、反対側の地平線に向かってみるみる遠ざかり、数分のちには夢のようにかき消えていた。足下から巻き上がりゆっくり収まったつむじ風だけが、たったいまの遭遇が蜃気楼や幻ではなく現実の出来事であったことを告げているのみだった。
 そのサポーターは半ば崩壊していた。頭部も両腕もなく、砂まみれの空ろな内部がふたりの位置からもはっきり見てとれた。サポートすべき主人を失ってなお、疑似生命体は慣れ親しんだ身体動作をはてしない過去からくり返してきたのだ。両足を柔らかく、しかし強靱に、まるで振り子のように規則正しく動かして、岩だらけの荒地を信じられないほどの速度で夜も昼もなくそれは永遠に駆けつづけているのだった。
「……あれがエデンのデスマスク存在が言っていた『風の行者』なんだな」
 長いあいだふたりの巡礼者たちは無言のままチベット高原の風にふかれていた。

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