父親はオオワシの翼を腕に縛りつけて村を囲む崖から飛び降り、そのまま帰って来なかった。
崖は垂直に切り立っていて外敵を寄せつけなかったが、村人が生きたまま下に降りることも不可能だった。そして今や村には若い女がひとりもいない。
長男は軽い木の板を貼り合わせてオオワシのよりも大きな翼を作り、きっと娘を連れて帰ると約束して崖を蹴ったがそのまま闇に消えた。
次男は丈夫な布を縫い合わせて作った大きな凧に乗り込み、髪の毛で編んだ長い綱を村人達に引かせて舞い上がったが、空中でバランスを失い岩に激突して果てた。
年の離れた末っ子は兄たちが天に昇ったと聞かされて育ち、いつか自分もその後を追いたいものだと願っていた。でもどうやったら空に昇れるのだろう?
末っ子はある日濡れた皮衣をたき火で乾かそうとしていてその答えを見つけた。四隅をひもで縛って木枠に広げ、たき火の上にかざしておいた皮衣が泡のようにふくらむと、木枠ごと浮かび上がったのだ。
皮衣はさほど遠くへは飛ばなかったし、自分がたき火の真上であぶられるわけにはいかないだろう。でも大丈夫、末っ子は空を見上げてにっこり微笑んだ。
ぼくはきっといつか大空を散歩して見せるさ。
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