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メディシン・マン

多治原冬香/中条卓

日ごとにやせ衰えていく娘をなんとかして救おうと王は国中から名だたる薬師や呪医を呼び集めたばかりか陰陽師やら呪禁師までも総動員して治療にあたらせたがいっこうに回復の兆しは見えず、しからばと昼夜を分かたず御自ら病を看取るその幕屋にどこからともなく現れたひとりの男、重なる疲労にうたた寝をしていた王の背中をどやしつければ王はたちどころに目覚めて振り返りざま腰の剣を抜き放つ、男はその一撃を軽く受け流して「見よ!」と一喝、王がよくよく目を凝らして見れば娘はもはや人の形にあらず、光輝く無数の糸を紡いだ繭のように見え、糸は次々にほどけていくところ、糸の端はどこまでも伸びてこの世界にあるすべての物、森や山、月や星にまでつながっており、さらには見知らぬ男も王自身さえもこの糸が纏まってかりそめの姿を結んでいるに過ぎないと知れ、男の曰く、「多くの病はこの繭の変形によるもので薬や施術で治せるが、ほどけ始めた繭は決して元に戻らぬ」、これを聞いた王はようよう娘の命を諦めると弟に位を譲り、男への弟子入りを志願し叶えられて修行に出る道すがら男が語ったところによれば、男の先祖はその昔大がかりな道具を使って病人の体内をのぞき見ては病の原因を探り当てる医師であったが、天よりスサノヲが降りたってその道具を取り上げたので、多大なる労苦の末、自らの目をもって病を視るすべを会得したのだという、ならばその修行とはいかなるものでしょうか、今や男の弟子となった王が尋ねると男は懐から水晶を取り出して弟子に与え、まずは言葉を捨てて一心にこの水晶を視ることから始めよ、と告げた。

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