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笹舟

中条卓

また「ぼわいやん」が来た。

他のこどもたちは見えないと言うが、もにかにははっきり見えるし、犬のしろだってほら、あんなにうれしそうにしっぽを振っている。木の精だってこびとだって、風に乗って空を行く竜だって、もにかに見えないものなんてないのだ。そしてみんながもにかに話しかけてくる。

(こんにちわ)
「あら、今はおはようの時間よ」
(ああ、もにかちゃんはもうおはようとこんにちわの違いがわかるようになったんだね)
「だってもう5つだもの」
もにかは片手の指をいっぱいに広げて見せた。
(今日は何をしてるんだい)
「お舟を浮かべてるの」
ちぎった葉っぱにそこらで摘んだ花をたくさん乗せて川に流すのだ。
(お花を乗せてあげるんだね)
「ううん、これはごちそうよ。向こうの島にいるこびとさんに届けてあげるの」
もにかは中州を指さした。
「でも難しいの。沈んじゃったり流れて行っちゃったりして」
(風さんに手伝ってもらおうか)
「え?どうやって?」

「ぼわいやん」は葉っぱを組み合わせて帆掛け船を作るやり方を教えてやった。もにかはすぐに作り方をのみこんで、せっせと水に浮かべだした。

(こびとさんに届くといいね)
「うん、こびとさんよろこぶだろうなあ」

この子になら伝えてやれるかも知れない、「ぼわいやん」はひとりごちた。この世界から失われかけている大切なものを。いや、そんな手助けをしなくても、この子なら自分でひとつずつ見つけていけるかも知れない。

ふたりの願いを乗せた笹舟がゆっくりと川を渡りはじめた。

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