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巡礼者たち8

高本淳

「見間違いじゃないの?」腐葉土にもぐりそうになる多関節の脚をあわただしく運びつつキーフはあっさりと言った。「サポーターで強化されていてもしょせんぼくらの目は人間ほどよくはないからさ」
「あれだけはっきり目撃したら疑いようもないよ。気になるのはあの目つきなんだ。はじめて出会っただろうにぼくの姿をえらく冷静に観察していた。ただの野生動物ならもっと警戒しそうなものなのに――」ブリムの声にはめずらしく不安げな調子がこもっていた。「まるで高い知性を持った相手に値踏みされているような印象だったんだ」
「ふうん? きみがそう言うならそうなんだろうな……何にしろ、そんな相手にはぼくはぜったい出くわしたくはないよ。ところでそいつは樹に登りそうだったかい?」
 ブリムは記憶にある『竜』の姿を心のなかであらためて描きなおした。
「……いや。樹に登れるとは思えない。あの身体の大きさと前後足のバランスから考えて、たぶん主に地上で活動する生き物だ――なぜそんなことを聞く?」
「じつはね、上陸してからずっと何者かにつけ回されているような気がするんだ。時々樹の上で影がちらつくようで……」
「樹の上?」ブリムはあわて気味に身体を横にねじるようにして上を見あげた。いまや大地にへばりつく彼らにとって頭上は最大の盲点だった。
「そういうことはもっと早く言うものだぞ、キーフ」
「だからはっきり見たわけじゃないんだ……」
「――とにかく早めに海岸に出よう。どうもこの森に立ち入るべきじゃなかったような気がするよ」そう言いながらしたばえをかき分けようとしたブリムの触手の動きがふいに止まった。そのままいつまでも動かぬ彼にキーフは何事かと進み出て相方が見つめる視線の先を追った。道はその先急に下って深い暗緑色の水をたたえた池に達し、その苔むした岩々が並ぶ岸辺に沿うようにして結跏趺坐する巨大な人らしい姿が幾つもあった。
「え? ……何? ここは?」
「言い伝えが正しいなら、たぶんここがアナバタプタ――無熱悩池だ」

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