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阿呆船

中条卓

「船が来るぞ!」風の匂いをかいだ盲目の男が叫んだ。

目を凝らしたがしばらくは何も見えない。だが、やがて霧の中から平べったい巨大な島がその姿を現した。その大きさは島としか言いようがなく、全体の格好はまるで城だ。竹を編んで作ったらしい壁に囲まれ、四隅に見張り櫓を構えている。声ある者は誰もが歓声を上げた。それに応えるように号砲がとどろき、海流に乗ってなおもゆっくりと移動する浮島のどこかから、迎えの葦船がやってきた。

ようやく巡り会えたのだ。乾ききっていたはずの両眼から知らぬ間に水が滴っている。

陸の生活、共同で農作業を行う暮らしからはじき出された者たちがいつしか寄り集い、「愚者の船」とか「阿呆船」などと呼ばれ蔑まれている、海上を漂う浮島をはるばる捜し求めて旅してきた。目の見えぬ者、左利きの者、腰をかがめられぬ者、言葉を解さぬ者、そして私は日照りをもたらす者だった。野獣に襲われ、飢えと渇きに倒れ、あるいは路上にへたり込むなどして、ここまでたどり着いたのはほんのひと握りだったが。

「我らの船にようこそ」葦船の舳先に立っていた男が呼ばわった。男のむき出しの肩には腕と呼べるものがなかった。
「我々は諸君を歓迎する。風を嗅ぎ、葦を刈り、魚に餌をやり、蚯蚓を養い、果実をもぐ…仕事はいくらでもあるからな」

そして我々はひとつの世界を抜け出て、まったく別の世界に移住したのだった。

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