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巡礼者たち13

高本淳

「お話を伺っているうち心に迷いが芽生えました。わたしたちの世界が過去に経験したことはあるいは故郷の長老たちが語りつたえていたのとはいささか異なるかもしれないと……」ブリムは王に伝えた。
「わたしたちは西の地エデンを訪れた際にそこを管理する『複写人格(デスマスク)』からひとつの依頼を受けています。『彼』ははるか昔から大陸全体の動植物分布をモニターし軌道都市『トウリテン』に報告することを任務としていました。人間が星々へそこから飛び立ったという軌道都市の住民はノマドの末裔と言われている。が、なぜ彼らはエデンにわさわざ身体をもたないバーチャル人格を置いたのでしょう? そしてまたなぜ融通のきかない機械じかけの『僕』たちを使役しているのでしょうか――ずっと疑問に感じていたのですが、いまの王のお話で謎の一端が解けた気がします。つまり、ノマドたちは必ずしも自ら進んでこの世界を捨てたわけではない、と――むしろやむをえぬ事情で大地を去り静止軌道においやられているのかも知れない」
「その事情とやら……解決した暁に人間たち……戻る……か?」
「それはわかりません。『彼』の言うにはGEO(静止軌道)とはある年を境にまったく連絡がとれなくなったということです。すでに三百年以上昔の話と聞きます――」
「『トウリテン』……遙か乳香海上……『贍部洲(ジャンブドヴィーパ)』からのみ……」
「はい、デスマスクからわたしたちへの依頼とは『贍部洲』へ渡りリンガム軌道エレベーターを昇って『トウリテン』を探訪し通信途絶の理由を探ることなのです」
 ブリムの言葉を通訳が王に告げると足場の上はいっせいに驚愕を含んだささやきが交わされた。『美猴王』は腕をあげてそれを制し、しばし黙考したのちこう告げた。
「祖先の業……われら……おうておる――人間のため……力をつくすこと……責務のうち……のみならず……かの侵入者……問題もある。ハヌマーン!」
 気がつくといつのまにかブリムたちの背後に戦闘用サポーターで身を固めた屈強な一匹の金絲猴が立っていた。
「玄武将軍……。わが特使として……この者たちと行け!」

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