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シェアドワールド:遠い明日……

高本淳

 ……インパクト後百年。温室効果ガスは存在しつづける。大量の氷が溶けこんで塩分濃度が低下した海は海流の循環を停止する。熱を運びさる自然のシステムを失った低緯度地帯の温度上昇の割合はさらに大きくなる。雨は大気中の二酸化酸素をわずかづつ海水に溶かし混むが人間の尺度から見たその進行速度は絶望的に遅い。洪水の時代はおそらく数百年の長きに及ぶだろうと予想される。

 ……インパクト後千年。メタンは分解され、過剰な二酸化炭素は海水に溶け込みあるいは光合成で炭水化物として固定され大気から除去される。その過程で植物相が回復する。植物性プランクトンも低緯度海域に姿を見せはじめ、じょじょに南の海に魚が帰ってくる。高緯度地方では気温は逆に急速に低下しはじめる。雪が降りはじめ氷河が少しづつ成長を開始する。あるいはそれは新しい氷河期の始まりかも知れない。とはいえ海洋の潮流循環が再開されるかどうかはわからない。それは微妙で複雑な条件に依存しているからだ。

 ……インパクト後一万年。地球生態系は完全に復活するだろう。スサノヲ落下の痕跡はもうほとんど残っていない。地球の長い歴史の上ではこうした出来事は日常茶飯事であり、したたかな生物たちにとってこの程度の災害など何事でもないのだ。この一万年の間の気候変動は確かに荒々しかったが、その前の一万年が例外的に安定していた時代であったとも言えるのだ。
 しかしホモ・サピエンスという種にとっては氷河期に匹敵する厳しい時代だったろう。一万年の後、人類がどのような姿で生き残っているのか? あるいはひとり残らず絶滅しているのか?
 ……このシナリオをいま読みおえたあなたがたによって、これからその長い長いストーリーが語られ始められる。

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