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とき:200X年3月5日

ところ:シェアドワールド内某所

参加者:中条卓、高本淳、雀部陽一郎(敬称略)

〈中条〉

お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。
早速ですが こういう、基本的なシナリオを共有した世界で遊ぶというのは、ネット対戦みたいなゲームでは珍しくないと思いますが、SFの創作に限っていえば初の試みなんじゃないでしょうか。

〈高本〉
そうかもしれないですね。連作形式のものは同人系サイトなんかでよく見ますけれど。超短編の公募という形で誰でも参加可能というあたりに新しさがあると思います。
〈雀部〉
日本では珍しいかも。ヤングアダルト系ではたまに見ますが。
海外の有名どころでは、フレッド・セイバーヘーゲンの《バーサーカー》シリーズの世界を元にした共作とか、《ワイルド・カード》もそうだな。長編ですが、アシモフの《ファウンデーション》の続編を3B(ベア、ブリン、ベンフォード)が書いたのも有名ですよね。
〈高本〉
いま雀部さんがあげられた正統派SFからはちょっと離れてしまいます
がコズミックホラーファンタジーのほうでは例の《クトゥルー》がありますね。
〈中条〉
いろいろあるんですねえ、ちっとも知らなかった(笑)。
さて方法論についてなんですけど、高本さんの作品群は伝統的なSF作法に則って、大気圏から海底まで含めた全地球を点描で覆い尽くそうとされていますね。私のはというと、こちらはホラー的というか、かなり身近な、そこらへんにいる普通の日本人が登場するお話が多い。最近はちょっと毛色が変わってきましたけども。実はこれ、高本さんがグローバル路線で行くなら、私はローカルで行こうという(笑)意識が働いておるんですが、そのあたりはいかがですか?
〈高本〉
方法論、というほど考えているわけじゃあないんです。守備範囲の違いじゃないでしょうか。わたしはもともとストーリーをわりと現実的なシチュエーションのなかで書いて行くほうですから。それを日本社会のなかでやろうとすると、つじつまあわせが大変になってしまうんです。
それが舞台が国外だとかなりいいかげんな嘘を書いてもバレない。(笑)まあ見る人が見ればバレバレなんでしょうけど、そういう人は読んでいないことを祈ってます。(笑)
そんなわけでちょっと後ろめたい気持ちがあったんですが、中条さんがそういう意識で書いていかれるなら、ぼくも安心してグローバルでいいかげんな路線をつづけられますね。
〈雀部〉
たとえて言えば、落語の三題噺にも通ずると思うのですが、制約のなかで、どうバリエーションを出していくかというのが腕
の見せ所だと思います。
お二人は、制約があった方が書きやすいですか、それとも全然ない方がやはり書きやすいでしょうか?
〈高本〉
ぜんぜん制約がない、というのはめちゃくちゃ書きにくいと思います。無重力空間に浮かんでいるみたいでどこに進んだらいいのかわかりません。適当な制約が自分にとっては手がかり=推進剤になるみたいです。ただ適当というのがどのぐらいかと聞かれると難しいですね。書き手にもよるんじゃないかな? そのあたり
中条さん、いかがでしょう?……とふってしまう(笑)
〈中条〉
私はもう、しばりがないと全然書けませんね。そもそも私の場合、何
か文章を書くのは「書きながら考える」ためなんで、まずは解決すべ
き問題を自分で自分に提出して、その解法を書きながら考えるわけで
す。Anima Solaris の掲載作で言うと、たとえば「究極の在宅勤務って
何だろう?」という割としょうもない(笑)問いから「在宅戦闘員」が生まれ、「蠅の王」という作品なんかはそれこそ「逆方向の因果律/無限の入れ子/人間に感染するコンピュータ・ウィルス」という三題噺だったりするわけです。一見深刻な話でも実は大して深いテーマなんかないんで(笑)、まず問題ありきなんですね。こういう書き方をしてるかぎり、絶対に一般受けしないだろう、というのはわかっちゃいるんですが…
〈高本〉
一般受けしないという点ではシェアードワールドのシナリオそのもの
がそうかも知れません。しばりという点でもちょっとやりすぎたかな?
といまでは反省してます。(笑)
〈中条〉
このシナリオ、細部まで丹念に検証されていて、これだけでも読み応えがあるんですが、それにしても何ちゅうワーストケースシナリオなんだろうかと…(笑)
現生人類は今のままの姿ではまず生き延びられそうにはないですよね。で、私としては「遠い明日…」の部分では文明の残光を失いつつある人類の挽歌みたいなものしか書けなくて困っています。高本さんは海底に活路を見いだしていらっしゃるわけですが…
〈高本〉
シナリオの科学的考証についてはアニマソラリスのスタッフのおおむらさんの力が大きいです。とにかくこのての話は某ハリウッド映画をはじめやたら多いものですから、いかに新味を出すかというあたりに腐心しました。そのためのアイデアのひとつが彗星の大気圏でのバウンドであり、また北海でのメタンハイドレートの崩壊です。
でもそのために世界にとっては悲惨な結果となってしまいましたね。(笑)とにかくシナリオを練り上げる作業の過程ではっきりしたことは
人類がひとたび今日の高度な科学技術とインフラを失ってしまえば、二度とそれを取り戻すことはできないだろうという事実でした。つまり「遠い明日…」の世界は無限に続く石器時代にならざるをえません。わたしが海底にシェルターをもっていったのは、なんとかストーリーにべつの可能性を求めたかったからです。“海底人”はいずれ地上に再上陸をはたしテクノロジーとそれにともなうやっかいな問題をもちこむはずです。
〈中条〉
なるほど。いずれ両者の路線が、あるいは他の作家の作品でもいいわけ
ですがうまくクロスリンクできると面白くなりそうですね。
ではこの辺で自作PRというか、これは是非読んで欲しい!という作品がありましたら挙げてください。また、これまでの作品群の中で心に残っているものがありましたらぜひ。
〈高本〉
そうですねえ。やはり『海盆12/24/2005』あたりかな? 地球生命圏をもっと大きな視点で眺めてみたらどうだろう?という問題意識をもって書いたものなので、SFとしても興味深い外挿につながるんじゃないかと思います。あと印象に残っているのは、ご本人を前にして口はばったいのですけど『空飛ぶスリッパ』です。けっきょく人もまた恐竜と同様に地球上に生まれてきた数々の生物種のひとつにすぎないんですけど、それとはべつに人間を人間として類い稀なものにしている何かがあると思うんです。中条さんのこの作品はその“何か”の感触をあたえてくれるような気がして、そのあたりがとても好きです。
〈中条〉
あ、ありがとうございますぅ(感涙)
私も『海盆12/24/2005』を読み返してみましたが、なるほど、ありがちな「深海の怪物」といった切り口ではなく、近くて遠い異世界としての深海と、さらにはその世界と陸地との交流ということで、興味深いファーストコンタクトものが誕生しそうな予感がします。
今回の特集に際してリストアップしてみたんですが、作品を寄せてくださった作家は11名、総作品数は今号を入れて69編でした。それぞれの代表作というか、作家の特色が出ている作品を1編ずつ、僭越ながら選ばせていただいたんですが、当然のことながらバラエティに富んでいて面白い。もっともっと多くの作家がこの企画に参加して欲しいですね。
ではこの辺でお開きとしましょうか。本日は大変ありがとうございました。

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