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叔父さんの失敗?

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 雪に埋もれた山荘の中で、裕介の父親を含む四人の共同所有者とそれぞれの家族親戚が、汗だくでひしめきあっている。

 裕介は、積み重なった段ボール箱の隣にうずくまっていた。手には、叔父の俊作からもらったばかりの透明なビンと携帯ゲーム機らしきものを握っている。ビンの中にはハチが一匹入っていた。よく見ると本物のハチとはどことなく違うようだ。俊作は「あとで説明するよ」といって、彗星突入シミュレーションソフトを走らせ最終的な衝突地点を正確に割り出そうと再計算を繰り返している数人の親戚を手伝いに行った。

 初老の男が一人、裕介のそばをすり抜けようとして箱に当たり、その衝撃で一番上にあった箱が落ちてきた。箱は男の頭を打って床に落ち、箱の中身があたりに散乱した。箱の中からは古びたミニ四駆が十数台と改造RCカーが二台とデジQが数個ころがり出てきた。
「誰だ!こんな所に置いたのは!」
 男は、裕介をにらみつけた。
「お前のかっ!」
「えっ、ぼくんじゃ…」
 俊作があわてて部屋の反対側から人をかき分けて戻ってきた。
「ああ、それ、僕のです。すみません」
 俊作は、箱の中身をひろって箱の中に戻し始めた。
「バカ野郎!彗星が衝突するって時なんだぞ。人類が滅亡するかしないか、究極のサバイバルだってのに、なんだ、このオモチャの山は。捨てろっ!こんなもの」
 男は、箱を取り上げてドアに向かって歩き出した。
「あっ、そんな、待って下さい」
 俊作が止めようとすると、男は箱を放り出し、俊作の胸ぐらにつかみかかった。
「いい歳して大人になれない奴が足を引っぱるから、生き残れないんだ。お前から死ね……」
 親戚たちが二人を引き分けようと必死になる。
「やめて!もう今日なのよ!みんなで仲良くできないと、誰も生き残れないわ……」
 誰かがヒステリックに泣き叫んでいる。

 大人たちの喧嘩を見たくなくて、裕介は手に握ったままだった携帯ゲーム機のスイッチをONにしてみた。液晶画面に文字が浮かび上がる。

(わたしの名は、ヴェス。自己複製できます。)

 裕介は、画面をみつめ、それからビンの中のハチの方に目を向け、また画面に視線を戻した。

(そう。わたしは、ビンの中。)

「えーっ!」
 思わず裕介が声をあげビンを顔に近づけると、ハチは、ビンの内壁に前肢と中肢をかけて裕介の方に頭を向け、翅を細かくふるわせた。

(人間も生き残りたいの?わたしと一緒に?)

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