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日記2005/12/24

中条卓

2005年12月24日 晴れのち火の玉

ものすごい地震だった。キャンプ用のアルミ食器じゃなかったら全部割れてたかも知れない。
お父さんは食事が終わったあともずっとイヤホンをつけっぱなしだったけれど、ようやくはずすとしばらく目をつぶって、それから私に「真史、お茶をたててくれないか」と言った。
箱を開けるまでは心配だった。よかった、割れてなくて。
私は前に全国総合文化祭でいただいたお茶碗を使うことに決めた。こんな夜にお茶なんて変かもとは思ったけど、大事なのは平常心だよね。
お父さんはお茶の香りを確めるみたいにゆっくりすすっていた。お茶碗をテーブルに置くとき、少しだけど手が震えていたみたい。
「東京は全滅したようだよ」
「それじゃあ」
「うん、茅ヶ崎もひとたまりもなかったろう」
それきりお父さんとお母さんは黙ってしまった。東京にはお母さんの、茅ヶ崎にはお父さんの実家がある。
「お父さん、全滅って?」私は聞かずにいられなかった。
「地震とその後に続いた津波がとてつもない規模だったからね。疎開しなかった人はみんなやられてしまっただろう」
じゃあ、おじいちゃんやおばあちゃん、親戚の人たちは、と聞こうとしたけど聞けなかった。

「今夜くらいはいいだろう」と言ってお父さんはウィスキーの栓を開けた。半年ぐらい前から大好きだったお酒もコーヒーも止めてたのにね。
「君らもどうせ眠れないだろうから好きなことをしなさい」

だからお母さんは音楽を聞き、タツロウはゲームを引っ張り出し、私は日記を書いている。
消耗品はもう二度と手に入らないかも知れないから大事に使うように、って言われたけど、やっぱりどうしても実感がわかない。倉庫にいっぱい買い込んだノートや鉛筆を使いきってしまう日なんて来るんだろうか。そうだナオミとゆかりに連絡しなきゃ、と思ってメールが使えないことに気づいた。電話は? 郵便は? 無線機はあるけど相手が持ってなきゃどうしようもないじゃない!
私がいらいらしているとお父さんがこっちを見て、「明日から真史にはお茶の代わりになる草や木を探してもらわんとな」と言った。
明日かあ…いったいどんな生活が始まるのか見当もつかないけれど、もうページの終わりだから今日はおしまい。おやすみなさい。

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