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特別な日

たなかなつみ

 今日は早く帰ってくるって言った。
 近所のスーパーはもう何にも売るものがなくって閉店。当然商店街のお店も今日は臨時休業が相次いでいるけど。
 こんな日のために、食材を冷凍保存していたから大丈夫。
 今日は早く帰ってくるって言った。
 10時? 9時? ううん、もしかしたら8時には、帰ってくるかもしれない。明るいうちに帰ってくるなんて言っていたけど、さすがにそれは無理よね。
 こんな日に会社に行くなんてって、近所の人たちは笑ったけど。そりゃあ、あたしもそうは思ったけど。でも。
 今日は早く帰ってくるって言ったのよ。
 温かい料理をつくって待ちましょう。会社に行った日にいっしょに晩ご飯を食べてくれるなんて。たぶん、結婚して、はじめて。しかも今日はクリスマス・イブだし。
 お洗濯はもう済んだし、お掃除も、ほとんど終わり。窓ガラスを磨こうかとも思っていたんだけれども、別に明日でもいいかな。大掃除は、どうせしないといけないしね。
 とっておきのワインは冷えているし。ソースを温めるのは帰ってきてからでいいんだし。
 今日は早く帰ってくるって言ったよね。
 帰ってきたら、いっしょに見ましょう。夜空に輝く彗星。こんなこと、たぶん一生に一度しかない。
 窓に向かって椅子を置いて、2人で並んで空を見上げましょう。そうして眠りましょう。2人で。2人で。
 帰ってきてね。待っているから。避難せずに、待っているから。もう携帯電話も通じなくなっているけれど。電車もバスも、もう走っていないみたいだけれど。
 早く帰ってくるって、初めて約束してくれたのだから。

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