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人々の暮らし

ドルフィン

 彗星さえ落ちなければ、別にどうということのない平穏な一日になるはずだった。しかしみんな臨時放送を聞いていた。どうせすぐに死んでしまうのだからと臨月まぎわで子供を堕す新妻。年金なしで生き残ってもしかたないといつも通り公園でひなたぼっこするひとり暮らしの老人。医者や看護婦たちをひきつれてシェルターにもぐりこむ管だらけの資産家の病人。ひとりで死ぬのは嫌だと刀をふりまわして通行人を殺しまくる自殺志願の青年。落ちる前の行動はいろいろだったが彗星への恐怖はみんな一緒だった。
 突然、物凄い衝撃があらゆるものを襲った。みんなわかっていた。彗星が落ちたのだった。
 必死に東に向かってにげた。大地震がおこりビルが崩れ破片の一部が頭を直撃し獄卒のように角が生えたまま主婦が死んだ。南に向かって逃げた。大津波がおそいかかり溺れた鼠のように舌をべろりんと可愛く出して鼠色のサラリーマンが溺死した。西に向かって逃げた。空から火の玉がふってきて松明と化してぼうぼうと燃えながらOLがヒップホップを踊った。北に向かって逃げた。突然悟りをひらいた坊さんが最愛の人と最後をすごそうとエッチにはげんだ。でもものすごい風が吹いてラブホテルが吹っ飛んだ。衝撃で上半身がなくなりつながったままの男女の下半身が夕焼け空の瓦礫からだらりと垂れ下がった。一羽だけ生きのこったカラスがふらふら飛んできてそれをつっついた。

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