慧を教祖とする宗教団体「 慧 照 輝 」の神殿は、強固な岩盤を持つ山間の天然の地形を利用して作られていた。
そこに新たに作られた中身のないドームに人が集まっている。
慧は部屋に戻りたかったのだが、無理にドーム内の祭壇の場所に据えられていた。
朝の時点で224人だと伝えられた人数は、もとよりすべてが慧照輝という団体を信じているわけではない。親に連れられて、子に連れられて、心ならずもここに来た者達もいる。そんな胡散臭そうな視線も感じていたが、だからといって帰れとは誰も言わなかった。もとより気にかける余裕もない。
そして慧はといえば、今進めているゲームの先行きだけが気になっていた。
耳鳴りがした。ついで、ぼんやりと視線を向けていた先が、ぶれた。
「?」
浮かんだ疑問は、瞬時にしてその時が来たのだと知る。
縋る物のないドームの内側で、地響きと共に多くの人が跳ねていた。慧とて例外ではなく、必死で伏した床に縋り付くが、すぐに体が投げ出された。
「慧様っ!」
世話役の男が咄嗟に慧の体の上に覆い被さる。それでようやく体がいくらか固定された。
激しい揺れはいつまでも続くようで、だが徐々に遠のく。なのにまだ体が揺れているように感じる。停電したのか灯りは消え、皆床に転がったまま、闇の中、身動きもせずに呆然としていた。
その時が来たのだと、誰もが思い、そして言葉もなく息を飲んでいる状態が続く。
だがそれも僅かな時でしかない。
不自然な状態を最初に破ったのは、子供の泣き声だった。
「い、いたあいぃっ!いたいよおっ!!」
それがきっかけだった。
連鎖反応的に泣き声と叫声と、意味もわからない怒声が広がって、ドーム内を満たす。
そのころには慧も、頭を庇った際の腕の痛みをはっきりと自覚した。
「痛い……」
ぽつりと呟いて腕を押さえてうずくまる。
──痛いのは嫌いだ。
──嫌いだからイヤだ。
──イヤだから、なくなれっ!
慧の体からふわりと幾つもの光りの玉が浮かび上がった。それは暗いからこそはっきりと皆の目に見えた。
柔らかな朱がかった色が舞うようにドームに広がりすべてを包み──、ふいに、消えた。
誰も身動きすらしない。
そして、もう誰も痛いとは言わなかった。
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