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信じた日 12/24/2005

舞火

 慧けいを教祖とする宗教団体「 慧 照 輝 けいしょうき」の神殿は、強固な岩盤を持つ山間の天然の地形を利用して作られていた。
 そこに新たに作られた中身のないドームに人が集まっている。
 慧は部屋に戻りたかったのだが、無理にドーム内の祭壇の場所に据えられていた。
 朝の時点で224人だと伝えられた人数は、もとよりすべてが慧照輝という団体を信じているわけではない。親に連れられて、子に連れられて、心ならずもここに来た者達もいる。そんな胡散臭そうな視線も感じていたが、だからといって帰れとは誰も言わなかった。もとより気にかける余裕もない。
 そして慧はといえば、今進めているゲームの先行きだけが気になっていた。

 耳鳴りがした。ついで、ぼんやりと視線を向けていた先が、ぶれた。
「?」
 浮かんだ疑問は、瞬時にしてその時が来たのだと知る。
 縋る物のないドームの内側で、地響きと共に多くの人が跳ねていた。慧とて例外ではなく、必死で伏した床に縋り付くが、すぐに体が投げ出された。
「慧様っ!」
 世話役の男が咄嗟に慧の体の上に覆い被さる。それでようやく体がいくらか固定された。
 激しい揺れはいつまでも続くようで、だが徐々に遠のく。なのにまだ体が揺れているように感じる。停電したのか灯りは消え、皆床に転がったまま、闇の中、身動きもせずに呆然としていた。
 その時が来たのだと、誰もが思い、そして言葉もなく息を飲んでいる状態が続く。
 だがそれも僅かな時でしかない。
 不自然な状態を最初に破ったのは、子供の泣き声だった。
「い、いたあいぃっ!いたいよおっ!!」
 それがきっかけだった。
 連鎖反応的に泣き声と叫声と、意味もわからない怒声が広がって、ドーム内を満たす。
 そのころには慧も、頭を庇った際の腕の痛みをはっきりと自覚した。
「痛い……」
 ぽつりと呟いて腕を押さえてうずくまる。
 ──痛いのは嫌いだ。
 ──嫌いだからイヤだ。
 ──イヤだから、なくなれっ!

 慧の体からふわりと幾つもの光りの玉が浮かび上がった。それは暗いからこそはっきりと皆の目に見えた。
 柔らかな朱がかった色が舞うようにドームに広がりすべてを包み──、ふいに、消えた。
 誰も身動きすらしない。
 そして、もう誰も痛いとは言わなかった。

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