「いてぇ……」
卓也が目覚めた原因は、ズギズキと痛む後頭部のせいだ。しかも、覚醒したばかりの頭に地鳴りのような音が低く響き、目眩にも似た感覚に襲われる。それから逃れるようにぎゅっと目を瞑って、しばらくしてから目を開けた。
ついでにすっかり目覚めた体を起こそうとして、動けないことに気付く。
「あ?……ああ、そうか」
胸と腰とそして足に、丈夫なベルトが卓也を拘束していた。
昨夜から不眠不休で発電システムの調整し続け、休憩しようと居住区に戻ってきた時にはもう外は真っ暗だった。
自室に入ろうとした時他の 慧 照 輝 のスタッフに見つかり、その時渡されたのがこのベルトだ。
『眠たいと思える度胸もたいしたものだけど──でも本当に眠るのなら、体をこれで縛っとくことをお勧めするわ』
呆れたように渡されたそれが、役に立つのか?と思ったが、確かにそれは役目は果したようだ。でなければ、闇の中、卓也の目にかろうじて映る惨状の中に、卓也自身も紛れていただろう。
ふと見覚えのある塊を取り上げれば、枕元にあった筈の目覚まし時計で、それは文字盤が歪むほどに変形していた。
「凄いな」
くすりと肩を竦めた途端に後頭部がまた疼いて、卓也はそれの存在を思い出した。さっき触れた時に気付いたコブにそっと触れる。
「何で……あ、これか」
取り上げたのは、ベッド横の机にあった筈の携帯電話だ。
その携帯は昨日まではここと外界を結ぶただ一つの手段だったが、もうその画面にアンテナマークはない。
卓也はそれをしばらく手の中で転がした後、ギュッときつく握り締めた。
壊れたからといっても支障はない。
なのに。
不意に胸の内から込み上げる寂寥感に、卓也は固く目を閉じていた。
それでも暗く沈んだのは一瞬で、卓也は小さく息を吐くと役立たずの携帯をごみ箱にほうり込むと、ここから見えない場所に視線を向けた。
「 慧 の奴、ちゃんとやってんのかな?」
ここに来て、全くの偶然から個人的に知り合うことになった教祖──慧は、根暗な少年だった。しかも我が儘で、ゲームが友達で、己の感情を出すのが苦手な──ガキ。
それはとても教祖と呼べる人格ではなかったけれど。
「ま、あれで顔と頭はいいし、力はマジであるし──ついでに運もあるからなあ……」
それがあれば大丈夫か、と、独りごちて、卓也は薄く笑みを浮かべた。
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