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センター街 12/24/2005

高本淳

 臨時の最終で帰るというクミを駅まで見送り、ナオコたちんとこにもどった。震えているアヤの隣にすわって――あいつ最後の最後に家族を選んだな。無事に辿りつくといいけど。もう二度と会えないんだと思ったらほろり涙が溢れた。悟られたくないから瞳を見ひらいて向かいのビルの広告を睨むようにして。午前2時――街はまるで寂れた場末の温泉街。遠くでクラクションの合奏。川を渡る連中が殺気だっているんだ。でもこのあたり人影ひとつない。日暮れまでの雑踏が嘘のよう――と思ったら薄闇の中で突然ガラスの砕け散る音。悲鳴をあげて跳ね起きるアヤを必死におさえつけて、大丈夫だよ! 誰かがこの先のショーウインドウを割ったんだ。あのベレー帽のあんちゃん帰りがけに忠告してったろ? 何にまきこまれるかわかったもんじゃない、早く逃げろって。だけどこれで人生おしまいとして、親の前でもういちど良い子演じられる? あたしはダメ。どうせ死ぬなら偽らず自分らしく死にたい。だいいちこんな苦しんでいるあんたを置き去りにできないよ。
 それでもどこからか悪口でも聞こえるのか両耳を押さえて身もだえるアヤ。切なくなって大声で呼びかける。まけるなー、がんばれー。
 まいったよなー、ミホ。こいつこんなになるまで……。その背をさすりながらむしろあきれた口調でナオコはつぶやく。
 何日か前から売人がみなどこか消えちゃったって愚痴ってたけど、まさかここまでとはね。可愛そうに背骨がこんなでちゃってる。援交で稼いだ金ぜんぶ注ぎ込んでたのかな?
 それどころじゃないよ。最近じゃ追いつかなくて怖いにいちゃんたちと組んでもっぱら美人局やって稼いでたって……。
 わー、そうなんだー。そうやって少女たち転落していくんだねえ。
 なに感心してるの。自分もそのなかのひとりのくせして?!
 われ知らず微笑んでしまう。このあたりが彼女のいいところ。もうじき世の終わりだってのに、話しているだけでなんかなごむ。やっぱあんたらと残ってよかったよ。
 アヤの背中ごしにナオコの腕を掴もうとしたちょうどそのとき、風向きかわる。とつぜんビル街に冷たく重い潮のにおいがたちこめた。

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