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センター街2 12/24/2005

高本淳

 怖い! こんな音聞いたことないよ。街ぜんぶがぐおんぐおん唸っているんだ。おまけにそこかしこの暗がりに黒い塊がうごめいていて――目をこらすとそれがみんな何十匹ってドブネズミ。まわりで渦巻く磯臭い風にときおり下水の悪臭がいりまじる。配水管から空気が逆流しているみたい。
 映画のように何もわからないうちに津波に飲まれて一瞬で死ねると思っていたのに……いたたまれなくなってわたしたちアヤをかつぎあげ必死で走る。でもどこへ?「……高いとこ。ビルの上のほうの階」息を弾ませながらナオコ。「でもどこもシャッター降りて鍵しまってるよお?」見回しながらわたし泣き声になった。
「たしか、さっきの音……誰かがガラスわった音……このへんじゃなかったっけ?」うろうろしているうちに、ごっとんごっとん、道ばたのマンホールの蓋が踊りあがったと思うとその下から真っ黒な水がふきだす。見る見る道いっぱいに広がり看板やポリバケツやゴミを押しながしくるぶしを浸してくる。「きゃーっ! いやーっ!」さわぐわたしをしり目にナオコは冷静にショーウインドウのひとつを指さした。「あそこだ」
 うねりもりあがる泥水をはねとばしかきわけようやく割れた窓に辿り着くころにはひざを越え腰が漬かるほど。狭い店をぬけて廊下のつきあたり、震える手で必死で階段の手すりをさぐる横をドブネズミの集団が猛烈なスピードで駆け上がっていく。血走り怯えきった目。わたしだって同じ目つきをしているはずだ。それからは果てしない上り階段。でも昇っても昇っても海水はぐんぐんふくれあがっておいついてくる。
「いやだー、もうだめ!」「止まっちゃだめ。ミホ、根性だせ!」息を切らしあえぎながら、それでもわたしたちアヤを抱えたまま離さない。仲間だから……っていうよりそもそも頭が真っ白なんにも考えられなくなっている。痙攣しそうな脚を無理矢理動かし最後にはもう一歩もよじ登れず、ああ、終わりだ! こわごわ見ると――増水はとまっていた。
 でも津波の本当のおそろしさを知ったのはその瞬間。腹の底からつきあげるような轟音とともにビル全体が激しくきしみ揺れ動く。窓ガラスがぴしりと砕け散り、がらがらと壊れた天井の破片が降りそそいで――助けてっ! おとうさん……おかあさん! 怖いよ!

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