そのアトラクションが遊園地の目玉としてお目見えしたのは、スサノヲの発見とほぼ同時期だった。ナノテクノロジーを応用した未来派コースターというのがうたい文句で、全長1200メートル、60億を越える微細なセラミックチップから成るコースターの外観は、自らの尾をくわえてうずくまる白い竜を模していた。乗客がこの竜の背にまたがると、うろこが変形して客をしっかり固定する。やがてゴングの音とともに竜は目覚め、客を乗せて動き出すのだ。コースターといってもレールの上を走るのではない。セラミックチップ同士が互いに位置を変え、竜全体が変形することによって客を運ぶのだった。あたかも巨大な波がサーファーを運ぶように。竜の先頭、自在に動く2本の角の間に陣取った子供は、竜がものすごい早さで自分の尾を呑み込むのを目にする。呑み込まれたチップは直ちに竜の体内を運ばれ、首の後ろに付加されるのだった。自らの尾を呑むと同時に不断に成長する蛇、ねずみ花火のように回転するウロボロスが竜の正体だった。支えうる身長と体重に限りがあるため、竜の乗客は子供に限られた。竜は聴覚と素朴な人工知能を備えており、子供たちの声―悲鳴や歓声―に応じて、変形の度合いやスピードを調節することができた。
当初は絶大な人気を博したこのアトラクションも、スサノヲの接近につれて世情が騒がしくなると乗客が減っていった。子供たちは変わることなく竜を愛したが、大人たちはそれどころではなくなってしまったのだ。ついには遊園地自体も閉園に追い込まれた。
物音の絶えた遊園地を取り巻きながら、太陽光発電で動く竜はまどろみ続けた。
だが、ある日ついに竜は目を覚ました。ゴングが鳴ったのだ。それはスサノヲが落下した衝撃で、展望塔のてっぺんから球形のラウンジが転げ落ちた音だった。竜の鼻先をかすめて玉は転がっていった。竜の目覚めた世界は子供たちの悲鳴に満ちていた。子供たちが呼んでいる、竜は思った。何をどうしたらいいのか、そんなことを考えている余裕も頭脳も竜にはなかった。ただ子供たちの声が竜をせき立て、突き動かした。竜の全身に震えが走り、竜は生まれて初めてくわえていた尾を放した。
次の瞬間、力強く大地を蹴って、竜は舞い上がっていた。子供たちのもとへ! 力の続く限り泣いている子供たちを救い出し、背中に乗せて飛んでやるのだ、竜はそう決心していた。
了
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