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センター街3 12/25/2005

高本淳

 あおむいた顔に雨がかかる嫌な夢で目覚めた。見るとナオコが心配そうにのぞきこんでる。濡れたその髪の毛からしずくがぽたぽたしたたっているんだ。ちょっとやめてよ、つめたいじゃない――咳き込みながらそう言うとあいつはホッとした様子で身体を起こした。息をふきかえすなり文句を言うってのはいかにもミホらしいよ。よごれた顔で笑う。その姿で気を失うまえのことをとつぜん思い出した。アヤは? ――無事だよ。疲れて眠ってる。でももう起こしてやらないと。あんまり長くここにはいられないから。
 どういう意味? いぶかるあたしに手を貸して座らせると、まわりを見てごらんと彼女。もう夜明けが近いのか薄明るい。寒さでぶるぶる震えながらも言われるとおりにしてぞっとした。あたしたちが逃げ込んだビルがきれいに半分なくなっている。数メートル先で廊下が崩れ落ちその先は鉛色の空。妙に見通しがいいなと思いおそるおそるのぞき見るセンター街はゴジラが壊して通った跡みたい。大小のコンクリート塊がちらばる底にぶく光っているのは水らしい。ごそっ、と一階下で床がぬけ落ちていったのであわてて後ずさった。
 はやめにここを出よう。運よく命拾いはしたけど、このビルだっていつ崩れるかわからないよ。うなずくとあたしはアヤを揺すった。せっかくおだやかに寝ているのを叩き起こすのは可愛そうだけど仕方がない。幸い幻覚に怯える時期はおわったらしく、ふにゃけた彼女をふたりで抱きかかえた。崩れかけている階段を下りるのは上りよりよっぽど骨がおれる。必死にふんばってようやく表にでると空はずいぶん明るくなっていた。頭の上を黒いカラスの群れが舞っている。空気は冷え冷えと磯臭い。道は砕けたコンクリートやガラスの破片で覆われているから怪我しないよう歩くだけで精一杯。そのうえアヤをだましすかしあちこちにある潮だまりをよけて進むのであたしたちもうへとへと。そのとききゅうにナオコが立ち止まった。足下に目をやって思わずかたまる。ガレキの下から血まみれの人間の腕がにゅっと出ていた。うわっ、気絶しそう! ところがナオコはこう言うんだ。――このひとまだ生きているよ。助けなきゃ。……ええ? まさか? ナオコ? いったい、なに考えてんのよ!?

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