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夜 12/24/2005

高本淳

 凍えそうな気分で目覚めた。ダンボールを幾重にまきつけていても都会の冷気は容赦なく身体の熱をうばっていく。ただ空腹が増すだけとわかっていてもこのまま動かないでいれば間違いなく凍死してしまいそうだった。そうなればそうなったでかまいはしない……と思ってはみるのだが、やはり心の奥深くでいまだに生にしがみついている自分がいる――どうにも浅ましいな、奥歯を震わせながら友彦は苦笑いした。
 昨日からほとんどものを口にいれていない。日雇い仕事もなくボランティア団体による炊き出しも中止されて久しい。彗星落下にそなえて政府が首都機能を移転してから数年、東京の人口はじょじょに減少してはいたが、それでも最終的な残務整理に携わる役人やビジネスマンの数は少なくはなく、そうした人々の便宜のためにぎりぎりまで踏みとどまって営業をつづける店もまだあった。それゆえに友彦も――数をふやしたカラスやどぶネズミどもと餌場を争うかたちで――廃棄処分された食料を探し出すことでなんとか生命をつないできたのだが、どうやらここ数日都市は一気に無人化したようだ。
 寒さに固まった関節を無理矢理動かしてシャッター前のねぐらから起きあがり、彼はよろめくようにして歩道にあがった。午前二時――かつてはそんな夜更でも若者のたむろする姿が多く見られた井の頭通りだがさすがにいま人影はない。
 よろよろ歩いているうちに凍え死にそうな寒さがいくぶん遠のいた。なんといってもまだ十二月なのだ。東京の冬はいよいよこれからが本番――かじかむ指で襟元をかきあわせ白い息を吐きながら友彦は頭上を見上げた。
 空が妙に明るい。深い紺色のしじまのなかに星たちが滲んで見えた。栄養不足がついに目にきたのか? 深い皺をきざんだ瞼を友彦は何度かしばたたいた――いや、確かに空そのものが霞んでいる。
 東の空をふりあおぎ思わず彼は息をとめた。半月が煌々とまばゆいほどに光をなげかけている。その周囲に見事な七色の暈がかかり鮮やかな光芒が幾筋も夜空にのびていた。
 寒さも空腹もひととき忘れさせるほどそれは神秘的で美しい眺めだった。

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