アイカダはたしかに面倒見のいい好青年であったが、その天性の博愛ぶりはべつにわたし一人にむけてのみ発揮されるというものでもなかった。それゆえ村のあちらこちらで人助けにつとめている多忙な彼にかわって、その友達のひとりであるナヤンという名の青年がもっぱら新参者であるわたしの面倒をなんとなく見てくれることとなった。
ナヤンはまずイムカヒブの生活に必要不可欠な道具――つまり食事のためのわたし専用の椀と水筒、そして謎めいた『ポカラ』と呼ばれる大ぶりの容器をとりそろえてくれた。椀も水筒もそしてポカラもそれぞれ違った種類の瓢箪の実をくりぬいて作られたもので椀と水筒はいかにも狩猟採集民族のそれらしく素朴かつ単純な入れ物にすぎないのに対し、ポカラだけは密封のための蓋と複雑な組み紐で美しく飾られていた。表面は幾何学的な図案が見事な彩色で描かれ、見るからに重要そうで同時に謎めいたこの容器にわたしはいたく好奇心をあおられた。しかしナヤンに手真似でその用途を尋ねても、じれったいことにはながながと理解不能な言葉での説明がかえってくるばかりでさっぱりらちがあかないのだった。
そんな具合ではじめこそいったい何に使うものかさっぱりわからなかったが、まもなく万古不変の必然性がその答えに自ずと導いてくれた。すなわち乾きが満たされ、なんとか居場所が確保されて人心地がついたためだろう、わたしは排泄の要求を感じはじめたのだ。どこでその欲求を満たしたらよいのか周囲を見回しているわたしの目に、ちょうどそのとき男たちのひとりが『ポカラ』を持ちムサの葉を分けて居住輪の外にでていくのが見えた――そこには帆を操作するための虚空に晒された足場があるだけだから、彼が何をしようとしているのか知るのに大した洞察力がいるはずもなかった。すべてがいっきに了解され、わたしはこの異境の地についてたぶんはじめて心の底から笑い、傍らのナヤンに納得のしるしに大きく頷いてみせた。つまり好事家の貴族であれば値を惜しまぬであろうこの美しく装飾された器は故郷で言うところの"おまる"なのであった。
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