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イムカヒブ族とともに 05

高本淳

 『コドリガ』はほんらい近場でのすなどりにもちいられる森の民特有の空中舟である。基本的には三本のまっすぐな木材を互いに直角に組み合わせた骨組みのみからなり、十五紐ほどの長さの二本を帆柱とし、その倍ほどの長さの一本がいわば『船体』となって荷籠や乗員がそこに結びつけられるという非常に単純な構造をもつ乗り物だ。それでもコドリガの建造は部族全員が協力して初めて可能になる一大事業であり、また間違いなく材料の選択やそれらを結びつける技術などに居住輪と同様の長い経験にうらづけされた深い知恵が盛り込まれている。たとえば二本の帆柱は船体である軸に単純に固定されるのではなく一種の梃子に似た枠組みを間に介して風の力を巧みに受け流すよう配慮されていたりする。とはいえわたしの目から見ればやはりお世辞にも茫漠たる大空に乗り出すに喜んで身をあずけたいしろものではないこともまた確かだった。
 しかしこの素朴な乗り物がひとたびイムカヒブの乗り手たちにかかるやいなや驚くべき性能を発揮するのである。すなわちこれらの『舟』はしばしば浮遊する無数の森の間の交易路をたどって数週間、さらには数か月にわたる長い交易の旅に出るのだ。この『大航宙』はもっぱら定期的に方向を変える季節風を利用するらしいのだが、男たちはこの空域の気流を知りつくした祖先伝来の知恵と、およそ人間業とも思えぬ彼らの鋭い方向感覚によってこうした離れ業をさしたる苦労もない様子でこなすのだった。
 予測していたように彼らの生活必需品のいくつかはこうした遠方の部族との取引きによってもたらされたものであるに違いない。すなわちコドリガこそ品物や情報やさらには人を運んでイムカヒブを含む半農半狩猟諸族のこの空域における一大文化圏を成立させる不可欠な手段なのだ――そしてそれゆえに、さまざまな種族間の言葉の違いを克服するためにこれらの航海士たちは、部族の用いるそれとはまた別の一種簡略化された商用言語を身につけているのだった。
 わたしにとって幸運なことに、この共通語は――その成り立ちからであろう、わが故郷の言葉と多くの部分でよく似ていた。なにより『コドリガ』という名称自体、国でもちいられる四頭立て馬車を名指す『クォードリーゴ』という言葉の発音にきわめて近い。思うにこれは単なる偶然ではなく、おそらく歴史家たちが唱えるように――太古の昔この世界にやってきたときすべての人々は同じ言葉を話していたというあの創世神話にある程度の真実が含まれていることを裏付ける証拠のひとつであるのかもしれない。
 当然若きコドリガ乗り見習いであるナヤンもまたその言葉をあつかうことができた。そのおかげでわたしは――彼を年下の教師として共通語のみならず難解なイムカヒブの言葉をも、すこしずつであるが習得していくことができたのである。

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