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イムカヒブ族とともに 11

高本淳

 

 おおいに自尊心を傷つけられた様子でナヤンが悄然と居住輪に戻ってきたとき、その様子を同情とともに眺めつつしばらく考えた末、それが他人の弱みにつけこむという武人にあるまじきやり方であることを十分承知のうえでわたしはこの若者にひとつの取引きを申し込んだ。つまりその身にふりかかった不名誉について沈黙を守るかわりに部族の一員として認められるよう彼に協力してほしいと頼みこんだのだ。わたしの二の腕に自分のそれをからみつけるようにして――すなわちこれがイムカヒブにおける契約の身振りである――ナヤンは承知したと答えた。
 かくして部族の言葉と習慣に詳しい青年の助力を得たことでこの森を脱出することを目指すわたしの計画は具体的に動き出した。なにより肝心なのはまず部族のなかで一人前に活躍できそうな役割を見いだすことであるとナヤンはアドバイスしてくれた。あなたはわれわれの誰より身体が大きくまた腕力も強いのだから戦士になるのが一番いいだろう、と彼は言った。もちろんそれは故郷で長年徴税監視の警護を務めていた自分にとっても望むところでもあった。とはいえこうした慣れない環境でそこに生まれついた戦士たちを十分相手にできるまでには一朝一夕というわけにはいかないだろうこともまた確かだ。そこでわたしはまずは自らの軍事技術に関する知識を活用することにした。
 要するに彼らのまだ知らない武器を造ってみるのはどうかと考えたのだ。イムカヒブをはじめとする森の部族たちは争いの際に互いに狩猟用の毒の吹き矢で応戦する。確かに枝々の絡み合った空間ではこうした取り回しやすい武器が有効であることは間違いない。加えて重力を欠いた環境ではその射程距離は非常に長いものになるだろう。
 しかしいっぽうで武器には単なる実効性を越えた部分もあるのである。音もなくいずれからともなく飛来する吹き針は確かに恐ろしいものには違いないが、敵の肝を冷やし戦意を喪失させるには必ずしも十分ではない。わたしが思いついたのは激しく音を発しつつ飛来し脆弱な防備を打ち砕く強力な飛び道具――すなわち弩(おおゆみ)であった。

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