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イムカヒブ族とともに 21

高本淳

 

 こうして短い間にじつに多くの新奇な体験をしたわけだが、それですべて終わりというわけではなかった。最後にわたし自身の運命に後日少なからぬ影響を与えることになる小さな事故が起こったのである。
 それは森の民たちが収穫をあらかた籠に収めおわり、一息つくとともに互いの顔を見る余裕をようやく得た時のことだった。突然ひとりの女の悲鳴が森の外れから響きわたり、ついで多くの人々があわただしく動きまわる気配がつたわってきた。タウヤヘの近くにいたわたしは間もなく村の子供のひとりが――間違いなく魚を手掴むのに夢中になりすぎたあげくだろう――うっかり枝を離れて虚空に漂い出てしまったという報告を伝え聞いた。
 もちろんこうした失敗は幼い子供にはしばしありがちであり、通常は周りの誰かがすかさず枝や蔦をさしだしたりすることで大事に至ることはまずないのであるが、今回はこの漁労にまつわる混乱のためこの子が流されたことを大人たちが知るのがいささか遅れたらしいのである。まずいことに今の状況では手近のコドリガを直ちに救出にむかわせることはできない。それがひっぱっていた長大な網がいまだ枝々にからまり空間を塞いでいるために、ひとまずそれを巻き取らないかぎり長い帆柱をもつ船を森の外へ安全に引き出すことができないのである。むろん村には他にもコドリガは幾艘かあるのだが、村人のほぼ全員が出払ってしまっている今、乗り手たちがそこまで戻って出航の準備を整えた後、船を森のこちら側までひき回してくるまでに霧を吹き払った風が子供を空の彼方へ押し流してしまう可能性は高かった。そうなれば最悪の場合その子の所在を見失ってしまう懸念があったのである。
 そんなわけでタウヤヘの命令一下その場を引き上げようとしていた村人たち全員おおわらわで引き網のかたづけにとりかかったのであるが――慣れない作業にはむしろ足手まといになりそうだと判断し、また今こそ万一にそなえて背負ってきた弩の有効性を試す好機かもしれないとも考えたわたしは仲間を離れひとり森の端にむかったのであった。

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