夢の苦い後味をうち消すべく表に出ると集まった女たちのなかにオトネの姿を捜した。夫が行方不明になって以来事実上の寡婦としてあつかわれている彼女だが最近その立場は多少上向いてきたらしい。つまり漂いついた見慣れぬ男としてわたしは村人の――特に女たちの――少なからぬ興味の対象らしいのだが、当人としばしば顔を合わせるオトネはその情報源として仲間内で一目置かれるようになっていたのだ。 「今回の救出劇であんたもだいぶ株があがったね」ポカラを手渡すとオトネは微笑んで言った。「おかげでわたしも鼻が高いってもんさ」 それで毎朝世話になっているお返しができるならなによりだ――答えようとしたせつな、相手の表情がふいに曇りまるで背後の何かから隠れるように間近に身をよせるとわたしの二の腕をきつくつかんだ。 「ちょっとこっち――」 否応もなく茂みにひきずりこみ、そこでようやくほっとしたのか取りなすようににやりと笑って彼女は弁解した。 「ツマヤクが遠くのほうで睨んでいたんだ。あいかわらず陰気な目つき――ぞっとするね」 「……呪術師が?」葉陰から覗こうとするわたしの手を止めて彼女はつづけた。 「最近になってしつこくつけまわすんだよ。嫁になろうって相手が誰一人ないからね。この際年増の寡婦でもかまわないってんだろ……お安く見られたもんだね。こっちだって男なら誰でもってわけじゃないさ!」 どう答えたものかためらう沈黙の隙に彼女はさらに身を寄せてきた。ポカラを手渡すことは本来なら誰より親しい仲を意味するのだからオトネがわたしを憎からず感じるようになったとしても不思議ではない。早熟なイムカヒブの女たちの基準にてらせば確かに若くはないが、実際のところは三十をわずかに出たばかりだろう。ふたりの子供に乳をふくませた胸はさすがに張りを失いはじめているものの、背中から腰にかけての線はいまだ成熟した女の魅力を保っていた。こうして茂みのなかにほとんど全裸の彼女と肌ふれあうほど接して男として欲望しないといえば嘘になる。とはいえ相手の腕の入れ墨が今朝方の夢を不意に思いおこさせ、反射的に身を遠ざけたその動作を悟られないようあわててわたしは話題をもどした。 「しかし――呪術師といえば族長にならぶ実力者のはずだ。まだまだ老人という年でもなし、貢ぎ物で暮らしぶりも豊かだろう。そんなに悪い話じゃないと思うんだが、なぜ嫁のなり手がないんだ?」 しばしわたしを見つめたのち、ふっと目をそらすとオトネは言った。 「村で知らないのはあんたぐらいだね。噂ではあいつ、以前自分の妻と子供を呪い殺したことがあるんだ……」 |