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イムカヒブ族とともに 27

高本淳

 

「……正式に通過儀礼(イニシエーション)を受けたいって?」
 居住輪の入り口で見かけ声をかけるとアイカダはその場に倒立する形で回転し頭のてっぺんからつま先までじろりとわたしを眺めまわした。
「股間につけてるそれは一体何だっていうんだい?」
 彼の言いたいことはよくわかった。水の乏しいジャングルで布製の服にいつまでもこだわっているわけにもいかず、わたしはとっくの昔にイムカヒブの成人男子の装束を身にまとっていたのだ。つまりペニスサックをした大の男がいまさら割礼でもないだろう――と言っているわけだ。
「ともかく自分のトーテムが必要なんだよ。一人前の戦士としてコドリガに乗り込むためにはね……」
「なるほど」笑いをひっこめると若者は軸柱に脂を塗る作業を続けながら沈黙し、しばらくして今度は真面目な口調で答えた。
「あんたがここに来てだいぶになる。いいかげん里心がついたとしてもおかしくはないってわけだ」
 ずばり見透かしながらもこの若者の表情はまったく皮肉を感じさせないものだった。聡明さと寛容さの美徳をともに兼ね備えた人間にはそうそう出会えはしない。彼と別れなければならない運命をわたしはいっそう辛く感じはじめた。
「あんたを含めて村のみんなには心から感謝している。でも……」さすがに今朝見た夢のことまで口にするのは憚られた。「ぼくには国に妻と子供がいるんだ。遅かれ早かれ、いつかは戻らないと」
「気持はよくわかる。別れは悲しいけど――あんたにとってはやむにやまれぬところなんだろうな」彼は手を伸ばしてわたしの二の腕に触れた。前に言ったとおりこれは名誉をかけた約定の印だ。「おやじに話をしてみよう。割礼は省略して儀式をとりおこなうこともできるはずだ――ただ新成人に課す試練だけは省略するわけにはいかないだろうな」
 通過儀礼は子供から一人前の大人へ至る死と再生の体験を意味するのだから、少なからぬ危険は必要にして不可欠でもあった。
「それで構わないさ。覚悟はできてるよ」そう答えたわたしは自分が実質的に故郷への長い旅路への決断を下したことを知った。

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