太陽が赤く染まりはじめるころ祭りは最高潮に達し、この時のために大量に仕込まれた酒が惜しげなくふるまわれ男たちの目は赤く血走りはじめていた。これらは密林に自生するスモモの一種らしい果実を原料とする醸造酒に夕顔に似た小さい花を咲かす植物の根をかみ砕き漬け込んだもので、幻覚作用をもたらす儀式用の特別な飲料なのだった。主役であるわたしも当然強制的に幾度となく飲まされるわけだが、しつこい甘みと苦みが舌に残って故郷の洗練された麦酒とは比較にもならぬしろものであった。それでも精神に及ぼす効果は侮りがたく、はるかに強い蒸留酒でも乱れたためしのないわたしが次第に正気を蝕まれつつあるのがわかった。記憶が薄れ、時間の感覚が混乱し、不眠不休で延々と歌い踊りつづけているうちにしまいには自分の身体が自分のものでなく周囲で揺れ動く刺青だらけの腕や脚の一部である気さえしてきた。
たぶんそうして踊りながらしばらく意識を失っていたのだろう。気がつくといつのまにか居住輪の外に出て呪術師を先頭に正装した戦士たちの隊列のまんなかで護送されるように森の中を進んでいた。まわりの男たちはナヤンやアイカダをはじめみな日頃ともに寝起きし冗談をいいあっている仲間のはずなのだが、その瞳はそろって麻薬の効果で混濁し、白目はそれとわからぬほど充血し、眉毛まで厚く塗りつぶした化粧のためにほとんど互いの見分けもつかず、まるで見知らぬ異界の軍団に捕らわれたような戦慄すら感じた。実際、額を赤く顔面を白く塗り鮫の歯や甲虫の羽根で作られたきらびやかな飾りをまとった彼らは、今やその原初の祖先たちの霊に憑依され現し身のまま精霊と化しているのだった。対してわたしといえば――いつのまにか下帯すらはぎ取られ生まれたままの無様な姿で――あたかも冥府への道を辿る死者のごとく否応なく彼らに引き立てられていくのだった。つまるところこれはかりそめの死を弔う通過儀礼の前段階にすぎないのであるが、確かに年端もいかぬ少年にとってはすでに大いなる試練に違いないと、ともすれば四散しそうになる意識を懸命に取り集めつつわたしは考えていた。 やがて一行は儀式のクライマックスが執り行われる森の端の聖地に達した。ここは浮遊する樹木が抱き込んだ無数の岩石のなかでも最大のもののひとつがあり、『言葉にならぬほど大昔から生きているばあさん』という意味の特別な名でよばれていた。村人たちはその周囲をていねいに枝打ちして村の男たち、あるいは女たちすべてが集まれる一方で外部から容易に覗き見ることのできない閉ざされた球形の空間をつくっていた。ぶ厚い葉たちが陽射しを遮るためにそこはいつも薄暗いはずで、岩の表面としがみついている木々の根がすっかり苔に覆われているのもうなずけた。しかし森の自転と太陽の動きが周期的に作り出すこの特別な瞬間、いっぽうの端にある木々の細い裂け目を通じて『真夜中の』陽光が射し込み、すべてを不穏な血の赤で満たしていた。
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