現場に到着し六人をすくいあげるのには何の問題もなかった。新たに加わった重さがたとえ一頭の鏃鮫には手にあまるものであったとしても、すぐにドゥク使いたちが自らの獣を呼び集め、船は離れ去るオングを追うのに充分な速度を得た。 しかしいざ指呼の間に近づくと男たちはあらためて声高に議論をはじめた。なにしろ相手はゆうに百人ぶんの重さのある野生の獣だ。いまだロチの籠に食らいついているその顎を一振りするだけでコドリガの軸柱が風を切って振り回されるのである。下手に近づいて一撃されたら無論ただごとではすむまい。 人間関係のもめごとの裁きに幾日もかける彼らだが、さすがにこうした状況での話し合いは手早く切り上げた。ひとりが舷側の籠から長い紐を取り出しそれを帆柱のひとつに結びつけ、つぎに船尾のこぎ手が櫨をあやつり男たちが口々に指示しあうなかで船首を漂流するコドリガと巨大な鮫の方向にむけた。いったい何がはじまるのか興味津々で見守るうち、ほかならぬイクニが鞘走らせた蛮刀を口にくわえ両の手でその中程を持った。残った端が別の帆柱に結ばれた滑車にとおされると、軸柱に脚をからめた男たちは力をあわせ紐を手早く引いたのである。 つまりヒアのロープによってこの戦士の身体を軸柱にそって打ち出したわけだ。熟練した船乗りの方向感覚と風向きの判断は正確無比であり、彼はくわえていた武器を利き手にもちなおしつつ、まっすぐに標的にむかって飛跡を描いていった。 その後はほとんど一瞬の出来事だった。いま思い返しても賞賛の念で満たされるのであるが、巨大な鮫の背――身体の動きのもっとも少ない部位に無事たどりついたイクニは素早く両足を背鰭にからめたと見る間に得物を両の手でふりかぶり、おもむろにその首筋深く突き刺したのである。 獣は一瞬身体激しく震わせ、その反動でイクニを宙に投げ出したあとたちまちぐったりとなった。いつのまに刀の柄にむすびつけていたのか、彼は細紐をあやつりふたたびオングの背にもどると、同僚からのやんやの喝采もどこ吹く風、黙々と鮫の身体を船にむすびつけはじめた。 その様子を眺めつつわたしは、このはにかみやで物静かな男を見くびって無謀にも脱走を企てなかったことへ密かな安堵のため息をついた。鍛え抜かれた戦士たちを見慣れた目にも、その技量が並々ならぬものであることが見て取れたからである。
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