「村の女たちが霧が晴れたあとの森にはいっていくのを見て不思議に思っていた」 村長の関心をつなぎとめるべくわたしは言った。 「いったい何をしにいくのか? そこでそっと彼女たちの後をつけてみたんだ――むろんイクニといっしょにだがね」 それが皮肉に響いたとしても深い皺がきざまれたなめし革のような顔から表情を読みとるのは困難だった。 「納得したよ。村の窮状も理解できたし、それと同時にふと思いだしたこともあった」 「この無意味な遊びをかな?」 「いや、故郷の風景をね。……わたしの国ではどこの村でも「菰(こも)」という細かい網を無数に重ねたものを長い綱に結びつけ宙に幾空里もの長さで泳がせている。われわれが『大地』と呼んでいる――非常に太い軸状の構造をぐるりととりまくように、綱は風車の力で漸次繰り出され反対端から巻き取られていく……」 「まさか、幾空里だって? ――それが嘘でないなら、その綱は信じられないほど丈夫ということになるが」 「確かにこの上なく頑丈な素材でできているよ。あんたたちの帆布といっしょで行商人が運んでくる遠い異国の産物さ。われわれの技術ではそれを作ることも修理することもできない……」 説明しつつわたしは故郷への遙かな道程を思い、失われた古代の秘法を受け継ぐと囁かれるかの魔術師たちの国を、あるいはいつかの日か訪れることもあるのだろうかと夢想した。 「まあそれは手にいれることは望めないが、あんたたちのヒアのロープだって十二分に強靱だ――」 もうそろそろいいだろうと判断して絡まぬよう凧糸をまきとりつつわたしは言葉をつづけた。 「そいつで丸一日縛られていたのだから身にしみてるがね」 「……で? けっきょくなにを見せたいんだ?」 しばらく沈黙のうちに作業をつづけ、ようやく手元にもどった凧の内側から取り出した暗緑色の塊をわたしはムズクハにさしだした。 「女たちが木々の間のこれをさがしているのを見て思いついたんだ――故郷の菰に似たものを凧にくくりつければもっと効率はよくなる。機織りの技術はなくても帆布の繊維を適当に間引いてやればできるはずだ」 そう言いつつ水苔の塊をにぎりしめると冷たく透明な滴が指の間からにじみ出した。 「ようするにメンダクルワイの仕事をわれわれがかわりにやるわけさ」
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