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イムカヒブ族とともに 43

高本淳

 

 無数の男たちの身体に擦り上げられ黒光りした肌目の細部まで馴染んだ芯柱(ポ=メナハバ)を見上げつつ、ここ数か月のさまざまな出来事をわたしは思い起こしていた。
 麻薬性の酒を強要される宴にはじまり、水球に封じ込められて虚空に投げ出されるという試練につづく一連の危難。そして生命をすくわれつつも虜としての微妙な緊張をはらんだディング族たちとの暮らし……。

 幸いムズクハは聡明な男だったから、あの実演のあとただちに凧という仕掛けの持つ実用性を悟った。わずか数日ののちには――例のとおり木材の加工に関する驚異的な技巧を発揮して――わたしのそれよりはるかに洗練されたそれらが男たちに操られ森の外を浮遊していた。
 細かい網がすくい得る水分は確かにわずかなものにすぎないが、いままで手のとどかなかった雲という水源を利用できるという事実は確実に村人を勇気づけた。そして目的と手段を与えられれば森の民の創意工夫と忍耐はわれわれ文明人の予想をこえるすばらしい結果をしばしば生む。
 ひと月ほど後にはディングの女たちの畑には以前どおり貯水池がよみがえり、メンダクルワイの羽音が聞こえるようになっていた。そしてムズクハはそれを正しくわたしの功績と認め、捕虜の身代として十分の価値があると見なしてくれたのである。

 枕元に気配を感じて目をあけ、ほんの少しのあいだ眠っていたことを知った。見上げる視野のなかに懐かしい友人の姿をみとめ、わたしは喜びを満面に浮かべながら起き上がった。
「やれやれ、帰ってきたよ。ナヤン」
「おかえり、そしておめでとう。『戒めを断ち切る者』」
 わたしが通過儀礼を通じて新たに得たその名を同様に微笑みつつ呼びかけることで若者は応えたが、なぜか彼の表情はいまひとつさえなかった。


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