普段は快活なナヤンが今回にかぎっては妙にその話題を避けたそうな様子なのをしつこく問いつめたあげく、わたしは彼の重い口をしぶしぶ開かせることに成功した。 「ノブジよ、これはあくまで噂だから必要以上に深刻にとってほしくはないのだけれど――村人の一部はあの事故はだれかが仕組んだものじゃないかと考えているんだ」 わたしはうなずいた。その件についてはディングの村で幾度となく心のなかで反芻していたからだ。 (ちなみに『ノブジ』とは『戒めを断ち切る者(ヒワ・サプル・エ=クサル・ノブジ)』を省略した形であり故郷のファーストネーム同様親しみを込めた呼びかけになる) 「……丈夫なヒアのロープが簡単に切れたことは確かに腑に落ちない。噂はあらかじめロープに切れ目をいれた人間がいたということなんだな? しかし、仮にそうだとしてもいったいだれがなんのために?」 彼は肩をすくめた。「――あんたはアイカダやその父親のお気に入りなんだよ。そして村には族長とその周囲を必ずしも快く思っていない輩もいる」 「きみは今回の一件に例の呪術師がからんでいるかもしれないと言ってるのか?」 「さあてね。そこまでは……」 明らかに年長者同士のいざこざにからんで確証のない意見を口にしたくないのだろう、青年はその場では言葉をにごした。だがオトネともなればもはやその手の遠慮など毛すじほどもなかった。 「――考えるまでもないじゃないか! 通過儀礼につかわれるものみな事前にツマヤクが預かって災い封じの呪文をかけるんだから……。ふん、もっとも自分自身が災い、ってんじゃ効き目もあるはずもないけどね」 「だが……この村に来て以来呪術師とはほとんど口をきいたこともない。それなのになぜ生命を奪おうとするほどわたしを憎む理由がある?」 「ノブジが人なみはずれた男だからだよ――身体も大きく力も強い。トーテムを得たいまとなればもう村のだれもかなわないよ。わたしたちの知らないいろいろな知恵も持っているしね」彼女は皮肉っぽく微笑んだ。「村人のなかにはあんたがツマヤクにかわって呪術師になってくれればいいと望んでいる者さえいる。奴にとっては自分の立場を脅かす手強い競争相手ってわけさ」 「なるほど」わたしはため息をついた。
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