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イムカヒブ族とともに 58
高本淳

  ふたたび緊迫した時間がながれはじめた。周囲に油断なく目をやりながらわたしは武人としての習慣で半ば無意識のうちに自らの戦術的な立場について考えていた。

 弩弓は破壊力であらゆる飛翔兵器を凌ぐ。わたしの作ったものははなはだ簡略であるとはいえその前では森の戦士たちの防御など無きにひとしい。

 つまり仮に同時に相手を攻撃できたとしても吹き針は楯で防がれる可能性がある一方、弩の矢はまず間違いなく的を射抜くことになる。 相手にとって位置を知られることはそれゆえ致命的なことなのだ。

 思うに相手のとりうる作戦は徹底した隠密性のもとに奇襲の機会をうかがうことのみである。破壊力とスピードで勝った武器を持ち比較的開けた空間に陣どっている者を攻略するにはそうした作戦をとるほかあるまい……。
 
ふと枝の一本が揺れた。

 小動物ではありえぬ動き−−反射的に矢をはなってしまったものの、不意に胸騒ぎを感じたわたしは身をひるがえしその場を逃れた。

かちりっ、……はたして、たったいままで背をあずけていた岩塊の表面に堅いものが跳ね返る鋭い音がした。すばやくつぎの矢をつがえ毒針が飛来した方向を狙いはしたが、すでに遅きに過ぎると判断しわたしはため息を吐きつつ弩を下ろした。

 間一髪であった。

  あの呪術師はおそらく細い紐かなにかを枝に結びつけ、遠く離れた場所からひっぱってこちらの注意を惹きつけたのだろう。そして矢をはなった直後の無防備なわたしを別の方向から攻撃したのだ。

弩の矢をつがえるのは時間がかかる。矢を放った直後なら反撃される心配がないし、また矢うなりが吹き針を放つときの微かな息の音をかきけす−−巧妙な作戦だ。

 わたしがそれをかわせたのはただただ幾多の闘いが培った経験と直感のおかげだった。

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