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イムカヒブ族とともに 61
高本淳

 オトネの危難はすでに気配で明瞭にわかっていた。はたして最後の枝をかきわけたわたしは髪をつかまれながら毒針をふりあげた怒り狂う呪術師の腕を必死に押さえている彼女の姿を見た。何と叫んだ覚えていないが怒声とともに飛びかかるのと、かの呪術師が腕をふりおろすのとほぼ同時だった。

 それからふたりは互いを必死の形相でにらみつけながら猛烈な死闘を演じた。わたしは奴の毒針を握った腕をひねりあげ、相手は反対の腕で拳を打ちつけ、膝でけりつけてきた。われわれは周囲の枝葉をまきちらし回転し、ぶつかり、もがきあった。彼は組み打ちから逃れようとし、またわたしは逃すまいと死力をつくした。

 なんといってもわたしは相手よりあたまひとつ大きく体重は倍ほどもあったから通常であれば簡単に決着がついただろう。しかし呪術師は重さのない世界での闘いに慣れており、わたしはかなり苦戦をしいられた。相手の腕をひねりあげようとするのだがいかんせんふんばりがきかないのである。剣をにぎった故郷での白兵戦なら幾度もくぐりぬけてきたわたしだったが、こうした環境での闘いはまったく初体験だった。

 加えて相手は戦士としての正々堂々としたふるまいなど気にもとめず爪であろうと歯であろうと使えるものはなんでも使って攻撃してくるのだった。そのうちわたしはまるで密林で出会った凶暴な野生動物と闘っているような気分になってきた。

 「おまえは卑劣な手で無関係な友を死においやった」慣れぬ格闘に苦戦しているわたしは相手の気をそらすべくそう叫んだ。「だんじて許すわけにはいかない。ここがおまえの死に場所だ!」

 「死ぬのはおまえだ!」相手は唾をとばしつつ狂ったように叫び返してきた。「おまえらのせいで正しい暮らしが失われてしまった! 精霊たちが呪っているぞ!」

 相手の言った意味を一瞬考えていたわたしはつぎの瞬間、激痛に悲鳴をあげた。呪術師がいきなり二の腕に噛みついてきたのだ。思わず握った腕をはなしそうになったちょうどそのとき、むなしく宙をかいていた片脚が太い枝に絡みついた。それを支点にしてわたしは苦痛に耐えつつ相手の顔に空いているほうの拳をたたきつけた。

「ぐっ……!」鼻から鮮血をふきだし呪術師はその場で反転した。ひるんだ相手は毒針を手放し、さらにわたしは利き腕の拳を、この友の敵の顎へと全身の力をこめて再び叩き込んだ。

 声もなく首をのけぞらし、点々と血の糸をひきながら呪術師は薄暗い密林の彼方へとふっとんでいった。とどめを刺すべく後を追いたい衝動をおしとどめ、わたしはオトネをふりむいた。飛び込んできたあの瞬間、確かに毒針がその肩に突き刺さったのを目撃していたからだ。

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