翻訳者の沼野氏は、高校生の頃この作品に出会い、ポーランド語の勉強を始め、ついにはこの『ソラリス』の新訳を手がけるようになったというSFファン。早川版で欠落している個所(約原稿用紙40枚分)を新たに訳出した完訳版です。
「……こういう孤立し、太古から不変で、停滞した国々では、おぼろにかすむ地球創成期の原初性を近代の今日にいたるまでなお多分に保存していて、それゆえ人類の先祖の記憶はいまだ生々しく、その先祖がどこからきたかは知らぬままに、人間はすべてその先祖の直系の子孫であると思いなし、おたがいに自分たちを生きた亡霊としてながめあい、なぜ自分たちが創造されたのか、その創造の目的が何であるかを太陽や月にたずねるのである」(『白鯨』八木敏夫訳 岩波文庫中巻111P~112P 第50章「エイハブのボートとその乗り組み」)「……わたしは時間がまだ始まっていない不思議な世界に一挙に逆戻りさせられるのであった。ちなみに、時間とは人間とともに始まるものではなかったか。この不思議な世界では、クロノスの薄明の混沌がわが頭上にうずまき、小暗い永劫の極地を、わたしは戦慄とともにのぞき見る。くさび形をした氷の城壁が現在の赤道にせまり、二万五千マイルにわたるこの地球の周辺のどこにも人間の住むべきたなごころほどの土地も見当たらない。当時、全世界は鯨のものだったのだ。鯨は現在のヒマラヤやアンデスの山並みに沿って航跡をのこしていたのだ。(中略)このモーセに先だち、底いのない言語を絶する鯨の恐怖に、わたしは心底からおびえおののく。このあらゆる時間に先だって存在する鯨は、あらゆる人間の時代がおわってもなお永遠に存在しつづけるにちがいない。」(『白鯨』岩波文庫下巻 145~146ページ 第104章「化石鯨」の章より)
「……こういう孤立し、太古から不変で、停滞した国々では、おぼろにかすむ地球創成期の原初性を近代の今日にいたるまでなお多分に保存していて、それゆえ人類の先祖の記憶はいまだ生々しく、その先祖がどこからきたかは知らぬままに、人間はすべてその先祖の直系の子孫であると思いなし、おたがいに自分たちを生きた亡霊としてながめあい、なぜ自分たちが創造されたのか、その創造の目的が何であるかを太陽や月にたずねるのである」(『白鯨』八木敏夫訳 岩波文庫中巻111P~112P 第50章「エイハブのボートとその乗り組み」)
「……わたしは時間がまだ始まっていない不思議な世界に一挙に逆戻りさせられるのであった。ちなみに、時間とは人間とともに始まるものではなかったか。この不思議な世界では、クロノスの薄明の混沌がわが頭上にうずまき、小暗い永劫の極地を、わたしは戦慄とともにのぞき見る。くさび形をした氷の城壁が現在の赤道にせまり、二万五千マイルにわたるこの地球の周辺のどこにも人間の住むべきたなごころほどの土地も見当たらない。当時、全世界は鯨のものだったのだ。鯨は現在のヒマラヤやアンデスの山並みに沿って航跡をのこしていたのだ。(中略)このモーセに先だち、底いのない言語を絶する鯨の恐怖に、わたしは心底からおびえおののく。このあらゆる時間に先だって存在する鯨は、あらゆる人間の時代がおわってもなお永遠に存在しつづけるにちがいない。」(『白鯨』岩波文庫下巻 145~146ページ 第104章「化石鯨」の章より)
引用した「化石鯨」の前文は、約7千万年前から100万年までの第三紀層から発掘された鯨の化石や、鯨の骨格に言及しているのですが、鯨類を通しそのはるか向こう側にある、膨大な時の流れと宇宙を見ている人間の目の存在を感じます……。 地球上にかつて存在したあらゆる生物の中で最大の脳を持ち、その頭部から発する超音波は、獲物の位置を正確につかみ、はるか遠方にいる仲間との交信につかわれる、さらに、水深3000メートルまで潜水する能力を持つといわれるマッコウクジラの生態は、いまでもよくわからない部分があります。 さらに、メルヴィルが生きた時代である19世紀、海の底は、今でいえば木星の衛星エウロパの厚さ3キロの氷の下に存在するとされる、深さ数十から百数十キロの海のように、まったく暗黒で未知の領域だったのでしょう。深海の底についてわかりだしたのは、潜水艦の建造技術が飛躍的に進歩したここ60年あまりのこと――第二次大戦以降ですからね。『白鯨』の第70章「スフィンクス」には「数ある潜り手のなかで、おぬしほど深くもぐった者はいない。いまそのうえに太陽がかがやく頭は、この世の奈落も見たはずだ。そこは歴史に名をとどめることなかりし強者どもの鎧やいくたの船が錆びつき、語られざりし夢と錨が朽ちはて、地球というフリゲート艦が何百万もの水死者の骨を底荷がわりにおさめる呪われた船倉だ。そのおそろしい海底のみやここそが、おぬしのなつかしのふるさとなのだ。」という、エイバブの言葉が出てきますけど。 そんな暗黒の領域に潜む体長15メートルの巨大生物――マッコウクジラは、漁の対象とはいえ、未知の能力を持つ、異星の生物のような、得体の知れない生き物だったのでしょうねえ……。
「われわれはヒューマニストで、気高い精神の持ち主だ。われわれは宇宙の誰をも征服しようとは欲しない。われわれはただ他の惑星の住人に地球の文化を伝え、交換に、他の惑星の遺産をもらおうと望んでいるだけだ。われわれは自分を聖なる接触(コンタクト)の騎士だと思っている。ところが、それが第二の嘘だ。われわれは人間以外の誰をも求めていない。われわれには地球以外の別の世界など必要ない。われわれに必要なのは自分をうつす鏡だけだ。他の世界など、どうしていいのかわれわれにはわからない。われわれには自分の地球だけで充分だ。」(「ソラリスの陽のもとに 飯田規和訳」ハヤカワ文庫118P)
「レム氏追悼ブックレビュー」は以下から。栄村さんをはじめとして、とりこさん、たなかさんの女性陣によるブックレビューも注目です。 http://www.sf-fantasy.com/magazine/bookreview 以下に簡単なレム氏著作年表あります http://www.sf-fantasy.com/magazine/bookreview/lem_table.html ネタもとは、アイザック・アシモフ著『科学と発見の年表』と、AMEQさんの「翻訳作品集成」及び、サンリオの『SF百科事典』、「Twentieth-Century Science-Fiction Writers」(St_J)、GROLIER社の"THE MULTIMEDIA ENCYCLOPEDIA OF SCIENCE FICTION"から。
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