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BookReview

レビュアー:[雀部]&[ttani]&[リプリー]&[モズ]

サンダイバー
『サンダイバー』
> デイヴィッド・ブリン著/酒井昭伸訳/加藤直之カバー
> ISBN 4-15-010685-1
> ハヤカワ文庫SF
> 640円
> 1986.9.30発行
 人類が独力で宇宙進出を果たし、白鳥座でティンブリーミーとの〈コンタクト〉を達成してから数十年、地球には数々の異星種属が来訪するようになっていた。地表には〈ライブラリー〉分館が設立され、人類は過去の種属が遺した高度のテクノロジーの恩恵にあずかり、さらなる発展を遂げつつあった。そんな中、人類と銀河種属合同のプロジェクトが発足した。
 太陽。6000度の表面温度。燃えたぎる核融合の炎……その太陽に、知的生物が住みついている!? そしてその種属こそが、人類に知性を与えたのち姿を隠した謎の種属かもしれない。この銀河史最大のミステリーを解く鍵を求めて、〈サンダイバー計画〉が実行に移された。かくして地球人科学者ジェイコブ・デムワは、銀河列強諸属のババカブ、ピラ、カンテンなどからなる探査隊を結成し鏡面球形船“サンシップ”に乗りこみ、灼熱の業火が渦巻く炎熱地獄へと決死のダイビングを試みた。太陽に降下した彼らは、“サンゴースト”と名付けた種属との接触に成功するが、この計画の裏にはある異星種属の奸計が張り巡らされていたのだった……

『スタータイド・ライジング(上)(下)』
> デイヴィッド・ブリン著/酒井昭伸訳/加藤直之カバー
> ISBN 4-15-010636-3(上巻)
ISBN 4-15-010637-1(下巻)
> ハヤカワ文庫SF
> 500円
> 1985.10.31発行
スタータイド・ライジング上 スタータイド・ライジング下
 船長のクライダイキー以下、乗組員のほとんどがイルカ〈人類の類属であるネオ・ドルフィン〉で構成された探険船〈ストリーカー〉号は、ある辺境宙域で、銀河史上最大の発見をした。ひとつひとつが地球の月ほどもある五万隻の大宇宙船団。調査の結果、既知の知的種属のものではないばかりか、想像を絶するほどの太古から漂流していたことが明らかになった。しかもそのテクノロジーは、銀河系の科学水準をはるかに凌駕している。この船団こそ、数十億年前に宇宙進出を果たし、全知的種属の〈始祖〉となった幻の種属と関係しているのではないか? 〈ストリーカー〉はこの発見を母星に報告するが、人類に敵対する銀河種属すべてが、その送信を傍受していたのだ!
 〈ストリーカー〉が持つ情報を得るため、銀河列強は大艦隊を派遣する。奇襲を受け傷ついた〈ストリーカー〉は、間一髪、超空間ジャンプによってクスセメニー星域の海洋惑星キスラップへと姿を隠すが、執拗に彼等を付け狙う列強諸属は、惑星軌道上で彼等の捕獲権を賭けて戦闘を開始した。
 海底に姿を隠した〈ストリーカー〉の船内では、船の修理を進める一方で、列強諸属を出し抜き、惑星から離脱をはかるべくある作戦が練られていた。顧問役として乗り組んでいた人間トーマス・オーリーは、作戦遂行のため危険を顧みず一人船を出る。そんななか、ネオ・フィン同士の権力闘争が巻き起こり、船長クライダイキーは、卑劣な罠に落ちる。そしてついに惑星着陸を果たした列強諸属テナニン。〈ストリーカー〉は、果たして無事に惑星から脱出できるのか!?
 米SF界期待の新星が壮大な未来史を背景に描き、ヒューゴー、ネビュラ両賞に輝いた傑作SF巨篇。

知性化戦争上 スタータイド・ライジング下
『知性化戦争(上)(下)』
> デイヴィッド・ブリン著/酒井昭伸訳/加藤直之カバー
> ISBN 4-15-010872-2(上巻)
ISBN 4-15-010873-0(下巻)
> ハヤカワ文庫SF
> 680円(上巻)
740円(下巻)
> 1990.6.30発行
 〈ストリーカー〉号の大発見を機に、五銀河の覇権をもとめる列強諸族の激烈な抗争が開始された。森に覆われた辺境の惑星ガースも、その争いと無縁ではいられなかった。鳥類型種属グーブルーが、宇宙艦隊を率いて突如来襲、人類とその類族ネオ・チンパンジーの暮らすこの星への侵攻作戦を開始したのだ。健闘虚しく、人類の防衛戦は一蹴され、ほとんどの人類は宇宙空間に脱出、惑星ガースには、グーブルーによる新たな植民地支配体制が確立されたのだった。
 森林地帯に逃れた唯一の人類で、惑星総督の息子ロバート・オニーグルは、異星種属ティンブリーミーのガース大使の娘ウサカルシン、ネオ・チンパンジーの一団と共に、果敢なレジスタンス活動を開始する。一方、ロバートらのもとを離れ、都市ポート・ヘレニアに潜入したネオ・チンプのファイベンは、グーブルーの巧みな懐柔策を目の当たりにする。彼らには惑星支配とは別の目的――ガースの現住種属ガースリングを探し出し、自らの類属とすること――があったのだ。日に日に熾烈を極める種属間戦闘のなか、ついに姿を現したガースリング、彼らの正体はいったい!?そして、人類とネオ・チンパンジーの運命は……。

《SFマガジン、'01/10月号所載の年表》

西暦500年頃 惑星ジージョへのグケックによる第一の植民開始
2080年頃 官僚機構による地球統一政府の設立
2100年頃 技術完了集団指導の革命で、官僚機構の崩壊(〈大変革〉)
人類による、ネオ・チンパンジー、ネオ・ドルフィンの知性化開始
221X年 人類の恒星間宇宙船〈ヴェルサリス〉号、白鳥座でティンブリーミーの船団と遭遇(〈コンタクト〉)
22XX年 地球の一勢力、惑星ジージョに植民開始
2246年 サンダイバー計画発動
2400年頃 人類とその類属ネオ・チンプ、惑星ガースに入植開始
2470年 〈ストリーカー〉号、ある辺境宙域で〈漂流船団〉を発見。
この事件をきっかけに五銀河系は大混乱に。
グーブルーによる惑星ガース侵攻。


雀部 >  「第65回世界SF大会 Nippon2007」にゲストオブオナーとして、デイヴィッド・ブリン氏が来日されるということで、わが「アニマ・ソラリス」でも協賛企画(笑)として、ブックレビューをしてみようかということになりました(笑)

 「Nippon2007」のProgress Report2号に、Tom Whitmoreさんが、ブリン氏を紹介してます。トムによると、最初に読むべきブリン氏の作品は『スタータイド・ライジング』だそうですが、みなさんはどの作品が一番お好きですか。
ttani >  わたしが好きなのは、グレゴリー・ベンフォードとの共作の『彗星の核へ』(Heart Of The Comet 1986)です。
雀部 >  これは、ブリン氏とベンフォード氏の良いとこ取りのハードSFですね。
 私も好きですが、単独作品から行きましょう(笑)
 まずは、『サンダイバー』。
 デイヴィッド・ブリン氏のデビュー作。
ttani >  この作品を読んだのはずいぶん昔になりますが、邦訳は『スタータイド・ライジング』の方が先に出ています。
 お話自体はそこそこ楽しめたのですが、読んだタイミングの加減か、この作品が《知性化》シリーズの一つであるということが理解できませんでした。
 シリーズものは早くても1〜2年、長い物で数十年の期間をおいて発表されますので、以前に読んだ同じシリーズのものの内容を細かいところまで覚えているのは困難です。
 邦訳はさらに出版者の思惑が加わりますので……
 むしろきれいさっぱり忘れていて、次のシリーズ作品を読みながらぼんやりと思い出すのがせきのやま^^;
 で、いまだもって『知性化』シリーズの一つであるということが理解できていません^^;
雀部 >  ということは、日本では、『サンダイバー』が『スタータイド・ライジング』のあとに出版された理由は、やはり銀河列強諸属のあれやこれやが頭に入っていたほうが、『サンダイバー』が面白く読めるからと考えて良いのかなあ、
 『サンダイバー』だけでは、そこらへんの綾が(主属と類属の関係とか)説明不足な感じがしますんで。とりわけ、ラストの謎解きを納得させるには、『スタータイド・ライジング』で明かされる、列強諸属の偏執狂ぶりを読むとさもありなんと(笑)
ttani >

 案外単純な理由かもしれません。出版年は次のようになっています。
 Sundiver (1980) サンダイバー (ハヤカワ文庫SF) (1986)
 Startide Rising (1983) スタータイド・ライジング (ハヤカワ文庫SF) (1985)

 出版社は当時新人作家だったブリン氏の初長編は邦訳を出しても売れるかどうか自信がなかった。
 しかしスタータイド・ライジングがヒューゴー・ネビュラ両賞を受賞したのでこれは売れるだろうと邦訳を出してみたら売れた! で、翌年サンダイバーの邦訳を出した。ついでにこれもいけるだろうとプラクティス・エフェクトの邦訳も出した。
 という営業上の判断ではないでしょうか。

雀部 >  翻訳の酒井昭伸さんに聞いてみたところ、“『スタータイド・ライジング』がヒューゴー賞・ネビュラ賞を受賞して、それでやっとブリンという作家が認知されたからです。賞をとったのでひとまず大急ぎで『スタータイド・ライジング』を出す→じゃあ同じシリーズの『サンダイバー』も、という流れ。”ということでした。

 ところで“SFの黄金時代は12歳だ!”(一説には15歳)という有名な警句がありますが、この時期の若者の柔軟な脳にとって、読むSFの総てが傑作と感じるのは無理からぬところでありましょう(私もそうでしたが)
 普通SFは、若者の視点から描かれることが多く、そこが若者向けのジャンルである所以でもありますが、同時にSFにおいて、無名の若者がおのれの才覚と努力のみで成功を勝ち取る物語が愛されるのもむべなるかなですね。
 この『サンダイバー』とそれに続く〈知性化シリーズ〉の作品は、地位も力もある老成した頭の固い列強諸属 vs 柔軟な思考と勇気を兼ね備えた若き人類種属(チンプとイルカも含む)という分かりやすい構図で物語が構成されています。アーサー・C・クラークの傑作短篇「太陽系最後の日」を引き合いに出すまでもなく、SFファンはこういうプライドをくすぐられるパターンには極めて弱いんです(笑)(「Rescue Party」 by Arthur C. Clarke)
 ブリン氏は、天文学の博士ということもあって、当時の最新知識を駆使して、太陽の深部に迫ってくれるのも魅力の一つです。最新科学と黄金パターン、この組み合わせに抵抗できるSFファンは、数少ないでしょう(爆)
リプリー >  今時の12歳から15歳はほとんど本を読んでいない子が多いようです。(ToT)
 手当たり次第何でも読む子、ライトノベルと漫画だけ読む子、そして何も読まない子・……と大きく3タイプに分けられそうです。(漫画を読む子はだいたいラノベも読みます。)
 ラノベから本格的にSFに移行してくれる子が出てくる事を祈ります。
雀部 >  うちの愚息たちは、漫画にラノベだなあ。
 長男は、普通のミステリは読みますが(これはカミさんの影響)
 SF読みは居ません。教育の失敗(汗)
リプリー >  うちの愚息もラノベと漫画(となぜか純文学)は読むのですが、本格SFの面白さにはまだ目覚めていないようです。読むんだったらいくらでも貸してあげるのに……。
 我が家も教育失敗。_| ̄|○
モズ >  『サンダイバー』は、ボクが最初に読んだブリンさんの作品です。
 あと、なに読んだっけか……???(苦笑)
 あ、『スタータイド・ライジング』……
 でも、これ、途中で頓挫したままですねん(笑)

 ボクのあたまでは、太陽の超高温の……あ、ネタばれになるんで割愛……とにかく、ついてゆくのがやっとってゆーか、はしょりまくった!
 てのが本当で、『サンダイバー』を読み終えた直後、ふぅ〜、おもろぁったんやが、読み終えてほっとしたわい!って、大阪に帰る新幹線の中で、ひとりごちたの覚えてます(笑)
 そうなんよねえ・・・ブリンさん来るのよねえ・・・
雀部 >  モズさん、ハードSFは苦手なのかな?(笑)
モズ >  いえいえ、大好きですよ!
 J. P. ホーガンなんかの話させたら・・・(苦笑)
 なんですがあ……『サンダイバー』の場合は、なにがマッチしなかったのか、とにかく、読み進みたいし(おもしろいってことですよ!)、ってのはあるのに、読んでる最中は、イメージがすこんっ!と沸く場合と、もやもやする場合があって、その温度差がしんどかったのかもしれないですねえ……
 なもんで、もいっぺん、読んでみっか……?と思う一方で、いやあ、また、あの、しんどさ体験すんのやだなあ……が、カットウするんでありますよ!(笑)
雀部 >  前の発言にもありますが、最初に『サンダイバー』読むと、設定とかがいまいち分かりにくいので、面白味が減るんではないかと……
 さて『スタータイド・ライジング』
 各賞受賞の傑作ですね。
 『サンダイバー』の冒頭の、ジェイコブとフィンのマカーカイが機械鯨の操縦の訓練をしているシーンが、この『スタータイド・ライジング』で活かされるんですねえ……
 いえ、このシーン、大好きなもんで(笑)
ttani >  この作品の中で『グリフをつむぐ』という表現がでてきます。何のことだか判らないまま読みとばしていたのですが、後年コンピュータにアイコンというのが多用されるようになって、『ああっ、頭の上にアイコンのようなものをホログラフで投影するようなことかっ!』と考えたのですが、さて3次元のホロを投影すると、たとえば『?』なら、見る角度によっては『l』に見えたり『!』に見えたりします。2次元なら『?』に見えるのですが、見て欲しい相手に面しての2次元画像にする必要があるなぁ、というようなつまらないことを考えてしまいました(笑)
雀部 >  “シュルフ・サ”と呼ばれる情動グリフが回転するシーンが出てきましたから、ブリン氏は、そこらあたりも考えられているのでしょうね。
ttani >  このシリーズの大前提はアシモフの描く世界と正反対、人類以外の宇宙人が人類よりも先にありき、の世界なのですが、このブリン氏がアシモフの《ファウンデーション・シリーズ》の続篇を書いているというのも面白いですね。
雀部 >  The "Killer B's"による三部作ですね(笑) 三人ともアシモフ氏のファンで、最終巻がブリン氏担当というのも、ブリン氏の"強引に"まとめる腕力が認められたのでしょう(笑)
 この〈知性化〉シリーズの特徴の一つは、人類の不屈の精神――列強諸属に決して屈しないところを楽天的なトーンで描いていることではないでしょうか。
 アメリカのSFというと、ポール・アンダースンの初期の有名な短編「救いの手」あたりに見られるように、大きい勢力に飲み込まれるのを潔しとしない、かつ多様性を尊ぶ精神が一般的だったと思います。
 ハインライン氏の有名キャラ、ラザルス・ロングも共同思考体に飲み込まれて安逸に暮らすことを拒否してますし、前記の参照先の《キリンヤガ》も、独立独歩と多様性をテーマにしてました。
(「The Helping Hand」 by Poul William Anderson, 『Methuselah's Children』 by Robert A. Heinlein "Lazarus Long", 「Kirinyaga」 by Mike Resnick)
 ま、ユニークであれということなんでしょうけど、変わったものが大好きなSFファンには、受けいれやすいんではないかと。だから、女流SF作家の書く、野蛮な海賊より洗練されたクローン国家を選んだり、いけ好かない男性よりは異星人を選ぶ女性の物語を読むと衝撃を受ける(笑)
(「Downbelow Station」 by C. J. Cherryh, 「The Women Men Don't See」 by James Tiptree, Jr.)
 まあ、そういうSFファンの古風な嗜好にぴったり合った物語だと思います。


[雀部]
ハードSF大好きのSFファン。ブリン氏の作品も大好きですが、「Nippon2007」の日本側のゲストオヴオナーである小松左京先生を研究するファングループ〈コマケン〉にも所属してます。
[ttani]
一生かかっても今まで出た良質のSFと、これから出てくる良質のSFを全部を読むことは出来ないだろうということが判りだしたSFファンです。
[リプリー]
元漫画家(主にSF)、現在特別非常勤講師とボランティアで小学生、中学生らに図工と漫画を教えています。
[モズ]
モズ中野。
海外向けセールス・プロモーション・ツール制作ディレクター。
いちおう、社内肩書きは「Chief Planner」。
幼い頃から、SF好きだった父親に連れられ50年代、60年代のSF黄金期の映画をたっくさん見て育ち、トラウマとなって現在に至る。映像制作プロデユーサーも兼務のため、特に「SFX」系作品に関しては「一家言」も持つ。平ったく言えば「文句言い!」(笑)

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