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SF読者のための量子力学入門

素粒子論 Particles Theory
14. 素粒子の世界 the World of Particles

白田英雄

19世紀までには、物質を構成している原子というものを考えて周期表のように配列してみるとその物質の性質がよく見えてくる、ということがわかってきていました。
それでは原子こそが物質を構成している根源粒子なのでしょうか?
第6回で説明しましたように、20世紀初頭にはラザフォードの実験を通して原子に内部構造があることがわかってきていました。中心に核となるものがあり、その周囲に電子が分布しているというものです。さらに、同位体の研究などの成果から、その核(原子核)はプラスの電荷を持つ陽子と電荷を持たない中性子からできていて、原子核の電荷は陽子の個数によっていて、原子核の重さは陽子と中性子のトータルの数から来てるということがわかりました。

陽子や中性子などは原子核を形作るさらに根源的な粒子ということで素粒子と呼ばれています。電子も素粒子のひとつです。
日本初のノーベル賞受賞者である湯川秀樹が登場するまで、世界で知られている素粒子はこの陽子と中性子と電子だけでした。
ところで湯川は疑問を持っていました。原子核にはプラスの電荷の粒子と電荷を持たない粒子しか集まっていないので、普通に考えたら電気的にばらばらになってしまう危険性を持っています。ところが、不安定な放射性同位体はともかくとして、大抵の原子核は安定して存在しているのです。
湯川は電子と陽子の中間的な重さを持つ素粒子である中間子を導入することで、この問題を切り抜けることに成功しました。原子核の中の陽子と中性子は互いに中間子をキャッチボールして、それによって結合していると説明したのです。

実はこのキャッチボールするという考えはなにも素粒子論だけの専売特許ではなくて、化学の世界でも使われている概念だったりするのです。原子同士の共有結合がそれです。例えば水素原子はふたつくっついて水素分子になるのですが、普通に考えると中性の原子同士が寄りそってもくっつくとは考えにくいです。ところが、自分の持っている電子を相手にも共有させることで、全体のエネルギーが下がり、いっしょにくっついてる方が安定して存在できるようになるのです。これが共有結合です。
中間子の場合も似たような現象となります。陽子と中性子で中間子を共有していると、共有していないときよりも全体のエネルギーが低くなるのです。物理現象はエネルギーが低い方向へと流れるという傾向があるものですから、原子核はひとつにまとまって存在することができるようになるのでした。
湯川の中間子論の発表の後間も無く、アンダーソンは宇宙から飛来する宇宙線の中から質量が電子と陽子の中間の粒子を発見しました。物理学会は大騒ぎとなりました。
その後の調査で、アンダーソンが発見したのはμ粒子(古くはμ中間子と呼ばれていた)という別の粒子であることが判明しましたが、ほどなくして、湯川の予言したπ中間子も実験で発見することができたのでした。
物理学者はこうして発見されていった素粒子の性質を調べるために、素粒子同士を高速で衝突させる実験を行いはじめました。衝突の時に生じるエネルギーは膨大です。不確定性原理によると、大きなエネルギーがある状態だと、短時間のあいだだけ粒子が存在することができることがわかっています。そうした粒子は不安定なので、さらに分解して、他の粒子になっていきます。
こうした実験の結果、物理学者は膨大な種類の素粒子を発見するはめに陥りました。そうなってくると、本当に陽子とか中性子をはじめとする素粒子が根源粒子であるかどうかの疑問が生じてきます。
100いくつもある原子は陽子と中性子という根源粒子を用いることで、その数の組み合わせによって原子のバリエーションができるということを説明することができるようになりました。素粒子でも同じようなことができないのでしょうか?
今では素粒子、正確には陽子や中性子や中間子などのハドロンと呼ばれる素粒子はクオークとよばれるさらに根源的な粒子からできているとされています。しかし、この話はまた後程することにしましょう。

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