物理の世界では力というものは加速度をひきおこす源として定義されています。イメージとしては、車に力を入れてどんどん押していくと加速されるという具合です。ここではこの押すという行為が力として現れているわけです。
力として現れるものはこの押すという行為以外にもあります。磁石を金属に近付けると金属は移動してひきよせられます。つまり速度0から動き出すわけですからここにも加速が起きてることになります。電気も力ですね。モーターはぐるぐるまわりますが、回転運動はすなわち加速運動だったりします。(運動の大きさでなく向きが変わることも加速と言います。)
もっと身近な力もあります。
重力です。
物を落とすとどんどん加速されていきます。 物を押したりして働く力を近接力、電磁力や重力のように離れた状態で働く力を遠隔力と言うのですが、ニュートンの昔から遠隔力はどこかオカルトめいたように思われていたようです。
ところが、よくよく考えてみると物を押すという行為は遠隔力で説明できるのです。
古典的な描像ですが、物質を形作る原子は中心に原子核があって、そのまわりを電子がまわってるようにとらえることができます。原子と原子を近付けるとどうなるでしょう。外側の電子同士が反発しあって、結果的に原子と原子は反発しあいます。となりの原子がそのとなりの原子を押して、さらにその原子はそのまたとなりの原子を押すという風になって、結局物体に力が働くことになるのです。押される力と電子どうしの反発する力がつりあえば、それ以上押すことはできなくなります。
私たちが物を持つことができるのは、こうして電子同士が反発しあってるからなのです。 こうして、近接力は結局電磁力で説明できることになったので、世の中に存在する力は電磁力と重力だけになりました。
それでは力はこの二種類だけなのでしょうか?
物理は別の力の存在も認めています。
15回で説明しましたように、同じ電荷を持つ陽子や電荷を持たない中性子をひとつの原子核にまとめあげている力が存在します。これは電磁力の反発力よりも強い力として存在するので、強い力と呼ばれています。
原子核の大きさよりも大きくなると急に弱くなるので、原子核より離れると強い力は働きません。15回では陽子と中性子を結びつけているのはπ中間子と呼ばれる粒子だと説明しました。 実は陽子も中性子も、そしてπ中間子もクオークと呼ばれるさらに根源的な粒子からできていることがわかっています。電気が電荷、磁気が磁荷というような、力の強さをもたらす量(チャージ)を持つように、クオークには色荷というものがあります。色荷には赤青緑のみっつがあります。陽子や中性子、π中間子では色が打ち消されていて、色が無いようになっています。(実際にクオークに色があるわけではありません。3種類あるチャージを表現するのに色を使ったにすぎません。) クオークの発見は、陽子や中性子と違う性質を持った素粒子が発見されて、それらを整理して説明するためになされました。ただ、普段は強い力で封印されてしまっているため、クオーク自体を観測することはできません。ただ、強い力が働く粒子は全てクオークからできていると言えます。
それではこれで力は出つくしたでしょうか。
実はまだ力が残されているのでした。
原子核から電子が放出されて、原子番号が上がる、ベータ崩壊という現象が知られていました。これは中性子が陽子と電子に分解する現象だと還元できます。中性子が1個減って陽子が1個増えるので原子番号が上がるのです。このベータ崩壊を引き起こす力を弱い力と言います。この他の3つの力が遠隔力なのに対して、崩壊を起こす力ということで勝手が違っているのですが、これも力のひとつなのです。厳密には、エネルギーの収支などから、ここに第3の粒子ニュートリノが入ってくることが理論的に予想されました。ニュートリノは電気的に中性で、しかも軽く、弱い力でしか反応しないので、ほとんどなににもさまたげられることなく突き抜けていってしまいます。最近になって、ニュートリノには質量が小さいながらにもあるということが実験で確認されています。 次回から、これらの力の関係がどうなっているかなどについて説明していきましょう。
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