| TOP Short Novel Long Novel Review Interview Colummn Cartoon BBS Diary |


カバー写真 『侵略者の平和』
<第一部 接触>

林譲治著
画=佐藤道明
2000年9月18日刊
ISBN4-89456-759-8
C0193

インタビュアー:[雀部]

ハルキ文庫 580円
 粗筋:
 数百年前に、那國文明圏が発射した無人恒星間探査船が発見したエキドナ文明。早速編成された合同調査隊は、衛星ラミアで、エキドナ文明の技術水準では製造不可能な核融合炉・大規模マスドライバーの遺跡を発見する。
 一方、ほぼ産業革命後の技術水準を持っているとされるルゴフ王国(エキドナ文明圏)では、奇矯な行動から電波姫とも呼ばれる天才科学者シズノ姫が、異星の侵略に備えての準備を固めつつあった・・・
 冒頭の深宇宙での探査船の描写に惚れました(^o^)/やはり、宇宙SFは、こうでなくちゃ。
 キャラも立っていて、尚かつハードSFであるという難しい両立を成し遂げている本書は、ヤングアダルト向けのSFファンのみならず、本格派ハードSFファンも満足させうる出来映えとなっています。続編が楽しみです(*^^*)
  



[雀部]  今月の著者インタビューは、新シリーズ《侵略者の平和》を9月に刊行開始された林譲治先生です。どうぞよろしくお願いいたします。
[林]  こちらこそよろしくお願いいたします。
[雀部]  林先生「エウロパの龍」星雲賞日本短編部門賞ノミネート、おめでとうございます。
 野尻抱介先生の「太陽の簒奪者」と被ってしまったのが運が悪かったというか。
[林]  いや、私としては最初に商業誌に発表したSF短編がノミネートされただけでも光栄に思ってます。SF短編としてはやはり「太陽の簒奪者」が上だと思います。
[雀部]  同時受賞とかは、ダメだったのかしら :-)
 こういう潜水船?(《侵略者の平和》では、宇宙船)のアイデアは、どこから出されるのでしょうか。宇宙作家クラブなどでも、情報を仕入れられるのですか?
[林]  最初に世界構築から初めて、それから必要な潜水艇なり宇宙船なりの必要な諸元をストーリーとの関係も加味して考えます。諸元が求まれば、あとは具体的な設計?に入ってます。
 宇宙船等のアイデアについては、宇宙作家クラブの行事もそうですが、他にも研究所の一般公開や学会の一般講演などにも参加して仕入れるようにしています。例えば「エウロパの龍」の潜水船は海洋技術研究所の一般公開で見学した「しんかい6500」などをイメージしていました。
[雀部]   なるほど「しんかい6500」等がベースですか。潜水艇とか宇宙船は、基本スペックが決まると、後は機能的なデザイン自体は似てくるでしょうから。
 冒頭部分の深宇宙と無人宇宙船の描写。素敵ですね、惚れました。無人宇宙船が、なんか愛おしくて、よく頑張ったと誉めて上げたいです。
[林]  冒頭部分の評価は見事に真っ二つに分かれていますね。面白いという人と、あの話ならあの冒頭でない方が良かったという人と。どちらかというと後者の方が多かったので、そういう点では意外でした。
 冒頭部分はともかく無人探査機がぼろぼろになりつつもけなげに自分の役割を果たすところを描きたかったというのがあります。この辺のヒントはしばらく前に打上げに失敗したM−Vロケットにあります。あのロケットはエンジントラブルが生じながらも、姿勢制御システムが可能な限り決められたコースをとろうと努力してたそうで、その事が強く印象に残っていました。
[おおむら]   M−Vは第一段のエンジンにトラブルがありましたが、上段には異常がなかったんですよね。私もあの打上げのビデオを見たのですが、液体ロケットだったら折れ曲ってしまうような姿勢で飛んでいったのにもかかわらず、上段ががんばって姿勢を戻そうとしたというのは、すごいことです。残念ながらM−Vでは一段の出力が大きすぎたために、上段でコースを元に戻すには出力が足りなかったんですけどね。
  「しんかい6500」ではないですが、同じ深海探査船がM−Vと同時期に失敗したH−IIの一段エンジンをひきあげてましたね。そういう意味では、偶然にも現実とのリンクがいくらか見られるような気がしておもしろいですね。
[雀部]  う〜ん、そうだったんですか。おおむらさん解説ありがとうございました。
 市井の一SFファンの感想ですが、詩的な文学の香り立つ幕開け→古めかしい単語と、ちょっとべらんめぇ口調に?→ハード的展開もあり、ふむふむ→ちょこっとだけ説明ありで、今後に期待大、といったところですか。
 そういうわけで、第一章で遺跡発掘のシーン。高等師範やら、那國やらの古めかしい単語が出てきて不思議がらせてくれます。ここで読者の心を掴んでしまってますよねぇ。
 読みながら「あれ〜、こりゃなんだ??」と、"?"が頭の回りを飛び交ってしまいました。この理由は、後でさりげなく触れられているのですが、これはこういう単語を使ってみたら面白いというのが先なんでしょうか、それともこうならざるを得ない設定(まだつまびらかにはされてませんが)を、先にお決めになったのでしょうか?
[林]   那國と那國文明圏の歴史の流れという物が先にありまして、組織名や階級呼称などはそこからある程度の必然性を考えて使いました。元となる官僚機構が先にあり、そこから派生して新たな組織が作られたという設定ですので、階級呼称にはこだわったつもりです。高等師範や防衛軍理工科学校などはフランスのエリート養成機関としてのそれを参考にしています。
 それと我々が割と耳にする大佐とか少尉とかいう階級呼称も明治に入って平安期の階級呼称を転用したのが今日に至っているだけですから、この辺は単純な慣れの問題ではないかと思います。例えば明治維新がなければ我々はGeneralのことを将軍とは呼ばずに陸軍頭取とでも呼んでいたかも分かりません。そんな社会だったら軍人を大佐とか少尉とか呼ぶような小説はかなり違和感を覚えるはずです。
[雀部]  ずいぶんお考えになってから書かれているんですね。こりゃ読者のほうも、深読みのし甲斐があるというものです。白状しますと、実は私、架空戦記物は苦手でして、数も出ているし、追い切れてないのが現状です。あ、未来を舞台にしたもの(佐藤大輔さんの《遙かなる星》《地球連邦の興亡》など)は楽しく読ませていただいていますが。この《侵略者の平和》シリーズも、架空戦記ものの要素もありますが、本質的にはアルタネィティブ(別世界)ものですよね。
[林]  存在しない社会のなかで人間を動かすわけですので、それなりに考えないとならない項目は多いですね。例えば星間社会では社会全体の標準時間をどう設定すべきかとか、市民は何を食べているのかとか、貿易形態とか。最も面倒でかつもっとも楽しい作業であると思います。でも他のSF作家の方と話してい
てもみなさんやはりかなり世界を考えておられるようですね。
 「侵略者の平和」に関して言えば架空戦記とは別だと思います。零戦も大和も山本五十六も出てきませんから(^^;)
[雀部]  ということは、零戦と大和と山本五十六が、架空戦記では定番ということですね(爆)
 ところで、エキドナ文明側のシズノ姫、惚れちゃいますよね。ちょっと日本(那國)風の名前がわけありそうで、後の展開も楽しみです。個人的には、シズノ姫とマーサ教授の対決が一番読みたいです。
 あと、核融合炉と大規模マスドライバーの謎がどう重なるか、それも楽しみです。あまり聞いてはいけない話題なんでしょうけど(^_^ゞポリポリ
[林]  マーサ教授とシズノ姫はわりと好感度が高いですね。この二人が直接対峙する場面は三部作の中では登場しないのですが、あの世界の歴史の中では二人は否応なく深く関わることになります。
 謎に関しては、まぁ、それなりに(^^;)
[雀部]  それは楽しみです。関係ないのですが、シズノ姫のモデルとか参考にした人はいらっしゃるんでしょうか?
[林]  最初の出発点は、惑星エキドナの静止軌道に衛星ラミアがあると、比較的頻繁に日蝕が観測できるため、それにより光が重力で曲がるという事実が早い時期から既知のこととなっている。これをきっかけに一般想定性理論のような物が独自に構築されて行く……というアイデアがありました。
 この状況の中でこうした既知の観測事実からこうした法則性を見つけ出せるのはどういう人物かを想定し、シズノ姫の大枠を決めました。
 彼女は科学者としての一面と、政治家としての一面を合わせ持っているので、それぞれの面に関して、歴史上の人物を何人かキャラクターが矛盾しないように参考にしました。
[雀部]  日蝕が観察できるというと、地球と同じですね。そういえば、アシモフ氏の著作で、日蝕・月蝕が観察できたから、天文学の進歩が早かったという説を読んだことがあります。
 最後に、差し支えなければ、《侵略者の平和》の続編を含めた今後の執筆予定をお教え下さい。
[林]   「侵略者の平和」は三巻で完結します。その後に同じ那國文明圏で50年後の話を春ごろまでに執筆する予定です。これはたぶん上下巻。一言でいえばエクソダス物です。他にも異星人とのファーストコンタクト物を書きたいと思ってます。
[雀部]  それは、大変楽しみです。
 急なインタビューに応じて頂き、たいへんありがとうございました。
 林先生の、これからのご活躍に期待しております。
第二部(2000/11/18刊)の粗筋は、以下
『侵略者の平和 第二部 観察』粗筋
[林譲治]'62年、北海道生まれ。臨床検査技師などの職業に就くかたわらSFなどを書き始める。『大日本帝国欧州電撃作戦の波濤』でデビュー。SFマガジンに宇宙SFを執筆中。宇宙作家クラブ及び日本SF作家クラブ会員。

[おおむら]
同人作家。ホームページは http://www.t3.rim.or.jp/‾yutopia/

[雀部]48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。ホームページは、http://www.sasabe.com


トップ読切短編連載長編コラム
ブックレビュー著者インタビュー連載マンガBBS編集部日記
著作権プライバシーポリシーサイトマップ