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Interview


月と炎の戦記

『月と炎の戦記』
ISBN:4-04-424301-8

森岡浩之著

インタビューア:[増田]

角川書店 571円 2000/9
 アマテラスが岩戸に隠れ、その国は闇に覆われてしまった。八百万(やおよろず)の神々が善後策を協議している間に、草木は枯れ果て邪神や妖怪が跳梁跋扈するようになり、人々は不安な日々を送っていた。そんな中、スクネの里の狩人カエデは里の長老達に、あろうことかタカナの淵に住むという化け物への生贄に仕立てあげられてしまう。成り行きには逆らえず一人タカナの淵へ向かうカエデだったが、道中、腹を空かせた“慎み深い”大熊とばったり。「私の夕食になってください」と懇願する堕落したその大熊からカエデを助けたのは、こちらもまた非常識な月の神ツクヨミだった。カエデとツクヨミ、そしてツクヨミに仕える喋る大ウサギ・ツユネブリの二人と一匹は、タカナの淵の化け物ミズチに挑む。だが最悪の邪神・火の神カグツチが復活してしまい……



《星界の紋章》《星界の戦旗》シリーズ

[増田]  今回のインタビューは森岡浩之先生です。
 よろしくお願いいたします。
[森岡]  よろしくお願いいたします。
[増田]  私はSF歴が浅いので読書量も吹けば飛んでしまうようなくらいしかないのですが、『星海の紋章』のSF設定は驚嘆の連続でした。考えてみれば当たり前のことなのですが、『レーザーをかわすには無秩序噴射しかない』という設定、平面世界での艦隊決戦の際の制約など、『そうだよな、そうだよな』と何度も頷きながら読んでしまいました。こういった緻密な設定は意識して描写するようにされているのですか?
[森岡]  それはもちろんです。じつをいうなら、設定を直接的に説明するのは抑えて、状況だけ描写していき、設定を朧気ながら浮かびあがらせる、という手法のほうが好みなのですが、この作品はSFに不慣れなかたにも読んでほしかったので、そのあたりはユーザー・フレンドリーなつくりになっています。
[増田]  一度お伺いしたかったのですが、アーヴの1標準重力はなぜ 0.5G なのでしょうか?
[森岡]  0.5Gという数値に厳密な理由はありません。
 よく誤解されるのですが、アーヴという種族は自由落下状態で働くことを目的に遺伝子改造されたのではなく、むしろ高加速状態でも働けるようにつくられているので、その生活様式も重力下を前提にしているところがあります。同時に彼らを創造した人々の生活様式を引き継いでいる、ということでもあるのですが。
 ですから、重力はあるていどあったほうが彼らにとっても便利です。重力というのは小さいほうが快適に過ごせると思いますが、微小すぎても不便でしょうから、まあ、適正な価は0.5Gぐらいかな、といったぐらいの理由です。
[増田]  アーヴの祖先を生み出したのは『弧状列島に住んでいた教条的な人々』であり、アーヴはその言語文化を受け継いでいるわけですが、そういった今では失われてしまった古代言語をあえて使うという発想は、どこから得られたのでしょうか。また、『月と炎の戦記』では古語、特に名詞について忠実に書かれていますが、私が図書館で探してみた限りでは、専門的な学術書じみた本でもないとそこまで解説しているような本はありませんでした。考古学研究では、古代日本については記録に乏しく発掘できない古墳もあるためにわからないことが多すぎるというのが実情だそうですが、やはり取材については苦労されているのでしょうか。
[森岡]  まずアーヴの言語についてですが、これは最初から人工言語でやるつもりでした。現在の星界シリーズのようにルビを振るかどうかは別にしても、人名・地名 などの固有名詞をつくるときには、最低でも音韻法則ぐらいはないといけないので。
 構想段階では、アーヴ語というのは現代語に起源をおくものではなく、完全な人工言語でした。もっとも有名な人工言語であるエスペラント語は、その文法・ 語彙をヨーロッパ諸語から取捨選択してつくられていますが、原初アーヴ語は完 全オリジナルな言語体系でした。
 ただ、アーヴ語が使われるのは未来です。異世界ファンタジーならどんな奇妙な言語体系でも許されるでしょうが、未来ということを考えると、その文法、音韻には一定の制限がかかります。いずれも単純でなければならない、と考えたわけです。それなりにわたしの好みなのですが、どうも帝国にはふさわしくないような気がしたのです。というわけで、原初アーヴ語は、人類統合体の公用語であ るリクパルとして使用することになり、改めてアーヴ語をつくることになりました。
 この場合のアーヴ語は複雑な文法・音韻にリアリティを持たせるため、現代語の変異種という設定を考えつきました。もとの言語はなんでもよかったのですが、わたしは日本語以上によく知っている言語というものはないもので、日本語ということになりました。そのおかげで星界シリーズにはジャポネスクSFとしての側面ができ、結果としてはよかったと思っています。
 現代日本語ではなく、ヤマトコトバだけで構成された特殊な日本語(語彙がかなりちがうので、上古日本語とはまた別物)をもとにしたのは、現代日本語が表 記に多くを依存している、かなり珍しい言語なので、避けたといったところでしょうか。
 つぎに『月と炎の戦記』の古語については、それほど苦労はしていません。しょせん上古語に過ぎないわけですし、上古日本語というのは言語資料が限られているので、かえってやりやすい側面があります。ぎゃくに、われわれと時代の近い、江戸時代の近世語などは資料が多すぎてわけがわかりません。われわれにとっては二〇〇年前も三〇〇年前も似たようなものですが、一世紀時代が空くとず いぶん変わってきているし……。
 というわけで、取材には苦労していません。むしろ、知っている範囲のことしか書かないのです。
[増田]  先生の最近の作品を拝読させて頂いていると、《星界の紋章》ではクファディスとスポール、《星界の戦旗》ではビボース兄弟やドゥサーニュとケネーシュ、《機械どもの荒野》では主人公とチャル、《月と炎の戦記》ではツクヨミとツユネブリなど、掛け合いの面白いキャラクターが必ず配されているように思うのですが、これは意識されての設定なのでしょうか?
[森岡]  たしかにボケとツッコミがいると書きやすいというのはありますね。そういう 意味では意識しています。ただコンビを組ませるために不必要なキャラクターを 登場させるということはありません。
[増田]  《星界の戦旗II》の後書きでは「『ディアーホ三部作』最終巻は《星界の戦旗III》」と書かれていますが、ジントとラフィールの物語はその後も書き続けられるのでしょうか? たしかどこかで「〈人類統合体〉との戦争が終わるまで書き続ける」とおっしゃられていたように思うのですが……。
[森岡]  書きつづける予定です。
 ただし、ジントとラフィールの物語になるかは定かではありません。
[増田]  それでは最後の質問になりますが、お好きなSF作品などありましたらぜひ教えてください。また、現在執筆中の作品などありましたら、差し支えなければ教えてください。
[森岡]  シルヴァーバークの『夜の翼』やマジプール・シリーズ、ゼラズニィの『光の 王』、チェリイの『ダウンビロウ・ステーション』、ヴァンスの『竜を駆る種族』 など、世界をきっちり書いた作品が好きです。
 執筆中の作品は、『星界の戦旗III』が三月刊行予定で作業のほとんどを終えています。角川書店の『ザ・スニーカー』には『月と闇の戦記』を連載中。あとはこれから徳間書店からだす予定の書き下ろしにとりかかるつもりです。
[増田]  今回はお忙しいところを、ありがとうございました。
 これからも先生を応援してまいりますので、がんばってください。
[森岡浩之]
1962年生まれ。京都府立大学文学部卒。サラリーマン生活を経て91年《夢の樹が接げたなら》でハヤカワSFコンテストに入選し、作家デビュー。96年《星界の紋章》全三巻(早川書房)を刊行。特異な銀河帝国を舞台にしたこの作品は、新時代のスペースオペラとして高い評価を得る。同作品は97年に星雲賞を受賞。また99年にはアニメ化された。他に著書として《星界の戦旗》、短編集《夢の樹が接げたなら》(以上早川書房)、《機械どもの荒野》(朝日ソノラマ)がある。
[増田]
本紙主任編集員。本業はうだつのあがらないフリーライター。SFとファンタジーをこよなく愛する社会的廃人。

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