| TOP Short Novel Long Novel Review Interview Colummn Cartoon BBS Diary |

Bookreview


レビュー:[雀部]&[かすみ]&[かない]

コールド・ゲヘナ4

ISBN 4-8402-1777-7

三雲岳斗著/忍青龍イラスト

電撃文庫 510円 2001/6/25
 砂漠の惑星ゲヘナで勢力を誇る三大国のひとつ、カルダモンで、王子の暗殺未遂事件が起きた。侵入者は、猫を連れた喪われし武術使い。この条件に当てはまるバーンは、弁明するどころか自分がやったと言い出して、軍事刑務所ギスカル要塞に入れられてしまう。
 一方、バーンの無実を証明しようと独自に活動を始めたアイスとフロスティは、各々意外な相手と出会うのだった・・・
 今回はデッドリードライヴではなくて、喪われし武術<ロストアーツ>と謎のロストアーツ使いがメインテーマ。まあ、龍はしっかり登場しますが(笑)
三雲岳斗先生著作紹介
[雀部]  今月の著者インタビューは、六月二十五日に一年五ヶ月ぶりでファン待望の《コールド・ゲヘナ》シリーズの四巻目を出された三雲岳斗先生です。
 三雲先生、よろしくお願いします。
[三雲]  こちらこそよろしくお願いします。お手柔らかに。
[雀部]  三雲先生と言えば、様々なキャラの造形もさることがら、私は卓越したユーモアセンスにいつも感心しているのです。コクのあるイギリス風のユーモアと、奔放なアメリカのホラ話的要素をミックスして、ジェイムズ・サーバーのペーソスをふりかけたようなとでも表現すれば良いでしょうか(あ、すみません。例えが古すぎますよね^^;)
 そこで、三雲先生のお好きな作家をお聞かせいただきたいんですが。
[三雲]  好きな作家や影響を受けた方というのはたくさんいるのですが、活字メディアにこだわらずに、あえて一人だけあげるとすれば、故藤子・F・不二雄先生です。
 あと、ユーモアということでいえば、アメリカのTV番組でやるようなホーム・コメディが好きなので、ああいう雰囲気を作品の中で再現したいと思っている部分はあるかもしれません。
 それが上手くいってるかどうかは別として、私の作品がホラ話というのは、すごく核心をついた形容だと思います。
[雀部]  藤子・F・不二雄先生ですか。ちょっと意外な感じもしますが、先日刊行なった全集なんかを拝見してますと、SFマインドに溢れた作品が多いですよね。それとホーム・コメディというと正に藤子・F・不二雄先生の世界ですね。ストーリー+絵ですから、あのインパクトは凄い。
 それはそうと『海底密室』でも、登場人物がヴェルヌやクラークの小説から引用してしゃべっていましたよね。クラークのひとつ目は『海底牧場』からで、二つ目の「誕生日が同じである確率が云々」というのは『渇きの海』だと思いますが、やはりクラーク氏には影響を受けられたのでしょうか(『海底牧場』はそのままの話だし、『渇きの海』も砂の中に閉じこめられた遊航船ということで、共通点もありますが)
[三雲]  彼らの作品に特別に思い入れがあるわけではなくて、特にクラークに関しては前作『M.G.H.』のあとがきでアシモフについてちょっと触れたので、なんとなく出してみたというのが実情でした。借景というか、クラークなんかの作品の持つ映像的な広がりを読者の方々が連想してくれるといいなあという計算は、もちろんありますけど、まあ、知らない人も多いでしょうし。
 あとは、比較的最近のミステリ作品で、古典ミステリの作品名を作中で登場人物に言わせたりしているのを見て、自分もやってみたかったというのも、ちょっとあります。こういうお遊びは今後控えると思いますので、どうか大目に見てやってください。
[雀部]  あ、そういうお遊びは大好きなので、ぜひ続けて下さいませ(笑)私の知り合いには、昔はSFを読んでいたけど最近は時間と気力が無くてライトノベルに走っているという仲間が大勢いますから、そういう類のくすぐりは、ものすごく受けるんですよ(『海底密室』に後書きを書かれている山田正紀先生の『ミステリ・オペラ』も色々なミステリが引き合いに出されてましたね)
 話が戻りますが、このシリーズで一番笑ったのは、『あんぷらぐど』所載の「いつか誰かが・・・」です。これを読みながら、まさに悶絶しましたわぁ(笑)
 三雲先生は、こういうストーリーを書いていらっしゃる時は、読者の反応を予想して御自分でもニヤニヤしながら書かれるのですか。それともクールかつ論理的に筆を進められるのでしょうか?
[三雲]  シリーズが長くなってくると、キャラクターも自己主張が強くなって、なかなか作者といえどもコントロールできなくなってくるのですが、特に日常生活が舞台になっている場面はその傾向が強いので、『あんぷらぐど』のような作品は、ちゃんと物語が着地できるのかどうか、むしろヒヤヒヤしながら書いてます。
[雀部]  シリーズものは、キャラが勝手に物語を進行してくれるということですね(笑)
 ではシリーズものでは無い作品とシリーズものとで書き方が違うとか、どちらかが書きやすいというのはおありでしょうか?
[三雲]  シリーズものにも単発の作品にも、それぞれ違った楽しみがあるので、どちらかが書きやすいと感じたことはないような気がします。自分の中でもブームがあって、シリーズものの執筆が続いたあとには、無性に単発の作品が書きたくなったりすることがありますし、逆にあるシリーズを書いてるときに、べつのシリーズ向けのネタを続けて思いつくことも多いです。
 ただ、長篇と短篇であれば、短篇のほうが好きかもしれないですね。飽きっぽい性格だからかもしれません。
[雀部]  三雲先生の作品群は、大まかに分けると、『M.G.H.』『海底密室』等のミステリの要素が多分に含まれたシリアスな作品と、様々な設定のシリーズもの(さっき出たホラ話路線ですね←失礼します)に大別されると思いますが、これは意識して書き分けられているのでしょうか。
[三雲]  そうですね。それも、やっぱり飽きっぽい性格だからという部分があって。シリアスな話を書きたい時期もあれば、おバカな話が書きたいときもあるということで。
 たまたま今は、その両方を書く機会を与えてもらっているので非常に恵まれていると思います。
[雀部]  ホラ話と言えば《コールド・ゲヘナ2》で、鬼姫が歪空剣を使うシーンがありますよね「亜光速に達した大剣"羅生"の先端は周囲の空間を歪め、大気は無限大の質量を持った刃と化した」とか、メチャ格好良いですね。まあ物理的にはあり得ない描写だと思うのですが(笑)そこで、こういうシーンを描かれる時、ここまでは科学常識を無視しても良いだろうかとか、ここだけは守りたいという基準をお決めになって書いていらっしゃるのでしょうか?
[三雲]  逆説的なんですが、ストーリーが荒唐無稽になればなるほど、なるべくウソをつかないようにしようと思っています。
 たとえば今回の例で言うと「物体の速度が光速に近づくと、その物体の質量も無限大に近づく」という点ではウソはついてなくて、ただ「物体を光速近くまで加速するには、エネルギーも無限大に投入しなければいけない(だから、そんなことはできない)」という情報を、意図的に欠落させているわけです。(それをウソと言うのだと言われれば、そのとおりなんですが……)
 論理的に破綻するのがイヤなら、架空のナントカ次元とかナントカ粒子ってのを登場させるのもひとつの手なんですけど、それをやっちゃうと、物語が現実に対して「閉じて」しまうような気がするんですよ。
 それよりは、ライトノベルの主要な読者である中高生が将来、相対性理論に触れたときに「そういえば三雲がなんかこんなこと言ってたな」って感じで、なにかのとっかかりになればいいなと思います。
[雀部]  やはりね(納得)SFとかミステリは、物語の中での整合性がなにより大事ですから、『海底密室』や『M.G.H.』を書かれた三雲先生は、たぶんライトノベルを書かれる時もそういうことは考えられていると思っていたんですよ。ここら辺のさじ加減はなかなか難しいでしょうが、頑張って下さいませ。
 あとSF的設定の作品というと『アース・リバース』もそうなのですが(題名が若干ネタバレ気味かな^^;)、私、最初これは題名からすると、無限に続く岩盤のなかの空間での話かと思ったんですよ(汗)まあ当たらずといえども遠からずだったのですが、この設定を活かして、炎界という一種の閉鎖空間で、全ての動力の元になっていると思われるマグマのエネルギー(熱)をどこに排出しているか、またそれを管理する人々の苦労(何世代も生活しておればそれなりに温度上昇があると思う)などをメインとしたお話も書いて下さるとうれしいです。
[三雲]  そうですね。リダウトという閉鎖都市は、作中ではほとんど描いてませんが、ほかにも楽しいSF的しかけがあるので、機会があればまた舞台にしてみたいです。
 最初にあの作品を考えたときには、自由恋愛という概念のない管理社会に、可愛い女の子が異分子として乱入してきたときに発生するパラダイムシフト、みたいな方向でも書けるな、と思ったんですよ。イザベルの性格あたりにその名残が残ってたりしますけど。さすがに新人賞の応募規定枚数で、そこまで書くのはムリでしたけど、それは今でも興味深いテーマだと思っています。
[雀部]  その展開は、けっこうそそられますねぇ。SFだと『異星の客』とか『時の仮面』なんかでも使われている手法ですね。機会があればぜひ実現してくださいませ。
 では、インタビュー二番手は、三雲岳斗先生の非公式ファンサイトを主宰されているかすみさんにお願いします。では、かすみさんよろしくお願いします。
[かすみ]  三雲先生の作り出す様々な世界観に魅せられて、ファンサイトを作成&運営しておりますかすみです。どうぞ、よろしくお願いいたします。三雲先生の作品には魅力的なキャラが多数登場しますが、彼等・彼女等には実在するモデルの方はいるのでしょうか?また、作品はシナリオから決めますか?キャラから決められますか?
[三雲]  実在のモデルがいるキャラもいます。ただ、本人の外見的な特徴や、名前をそのまま使ったりということはほとんどありません(そのわりには、知り合いから苦情やら注文やらがくる回数が多いような気もしますが……)。
 もうひとつの質問については、これはなんとも言えないです。作品によっても傾向が違います。キャラは当然シナリオの影響を受けるし、同じシナリオでも演じるキャラによって展開がまるで違ってきてしまいますし。
[かすみ]  「レベリオン」のあとがきにおいて、イラストによって自身の作品に足りないものを補うとありましたが、ご自身の作品において足りないと感じられているものはなんでしょうか?
[三雲]  えーとですね、あとがきに書いたのは、「私の作品に足りないもの」ではなくて「私の人格に欠落したもの」があるということです。まあ、べつに深刻なものではなくて、あんたちょっと変わってるね、とか、その程度の問題なんですけど。
 その欠落がなんであるか、というのは、ここで語るべきものではなくて、これからの作品のなかで書いていかなきゃならんのだろうな、と思ってます。
[かすみ]  「コールドゲヘナ」「アースリバース」と舞台となる世界は“灼熱の世界”になっていますが、これは三雲先生の地球崩壊(笑)に対するイメージなのでしょうか?
[三雲]  そんなことはないですよ。私は砂漠自体にはネガティブなイメージはありませんし、炎界ってのは熱力学的にはすごく豊かな世界だと思いますし。
 問題なのは地球が崩壊するかどうかではなくて、人間がどうなるか、だと思います。月並みな答えで申し訳ないですが。
[かすみ]  作中で使用される用語は、本来の英語の意味からとったものが多いのでしょうか?
 それとも音の響、字面の並びのかっこよさを重要にされているのでしょうか?
 また、漢字を当ててるものも多いですが、これは漢字から先に決めてるのでしょうか?
[三雲]  造語に関しては、大抵、なんらかの象徴的な意味やダブル・ミーニングを持たせるようにしています(単なる言葉あそびも多いですが……)。漢字は、まあなるべく雰囲気が伝わりやすいものを選んでます。どっちが先ということはないですね。
[かすみ]  「レベリオン」「M.G.H.」「海底密室」では主人公に最初にコンタクトする人物(もしくはかなり早い段階で)が物語の重要な役割(・・・犯人)になることが多いですが、これは癖でしょうか。
[三雲]  えーと、これは推理小説のルールです。ノックスの十戒にも、ヴァン・ダインの二十則にも、犯人は物語の冒頭から重要な役で登場させなければいけない、と書かれています。わりと律儀なんですよ、そういうことには。
[かすみ]  様々なジャンルの作品をお書きになる三雲先生ですが、ご自身で一番“自分のいいたいこと”をかけたと思われる作品はどれでしょう?
[三雲]  「海底密室」ですね。あんだけ好きなことを書いたら、もう当分、主義主張はいいや、という気になりました。次にあのシリーズを書くときは(もうすぐです)、思いっきりエンターテイメント寄りにしてやろう、なんて思ってます。
[かすみ]  「コールド・ゲヘナ」アニメ化無期限延期はとても残念でしたが、先生が一番映像向き、または映像化したいとお思いの作品はどれでしょう?
[三雲]  「放課後の殺戮者」を実写の連続テレビドラマでやって欲しいですね。ムリかな。
[雀部]  さてインタビュアーの最後は、三雲岳斗先生の大ファンだとおっしゃるかない理己さんです。かないさんは、東海ラジオの関西限定「電撃大賞」で葉書が採用されたとお聞きしましたが。
[かない]  はい、自称三雲先生の大ファンのかない理己です。どうぞお手柔らかにお願いします(苦笑)そのラジオの事なんですが、実は来たんですよ…三雲先生からのお礼のハガキが!!!(爆)
 公式HPで「質問下さい」とあったのでアイス&フロスティのイラスト付きで出してみたらなんと採用されちゃってたみたいで(激爆)
でも私の所は関西圏の方は聞けないので、申し訳ないと思われた三雲先生が報告としてハガキを下さったみたいです…(しかも忍先生のバーンラフイラストもプリントしてある…)
こういう律義なところがあるから先生の作品&人柄に惚れちゃうんですよね〜
 手紙を見た時は嬉しくて10分くらい飛び跳ねちゃったし(苦笑)←母が「誰からの手紙?」と聞いてきたのには焦ったけど…
[雀部]  それで結局番組は聞けたんでしょうか?(笑)
[かない]  はい、聞くことができました。
 たまに電波が飛んで雑音になっていた時もありましたが(泣)
 でもこれで自分のハガキがちゃんと採用されてたことを改めて確認。
 読まれた時は、自分の腕が震えてるのを感じててしばらく腕が動かせませんでした。
 感動してたんですね…きっと、うん(/^/▽/^/)
 質問に答えて下さった三雲先生&松野さん&吉野さんには感謝という気持ちでいっぱいですっ☆
[雀部]  良かったですね☆
 では、何か三雲岳斗先生に質問がございましたら、どうぞ。
[かない]  私はミステリが好きなんですけど、三雲先生は、『M.G.H.』『海底密室』とSF的設定でミステリ作品を書かれていらっしゃいますよね。どうしてこの二つの分野を結びつけた作品を書こうと思われたのでしょうか。
 もうひとつ、これからもSFミステリ作品を書かれるご予定はありますでしょうか。
[三雲]  私の周囲にいた人間が、SFだと「よくわからん」と言って読んでくれないけど、同じ作品をミステリだと言って渡すと読んでくれる、とか、そういう経験が過去にあって、それがきっかけと言えばきっかけです。
 自分にとってSFっていうのはソフトウェア、ミステリというのはハードウェアのイメージなんで「SFがよくわからん」という人がいるのは理解できるんですよ。なのでミステリという肉体を与えてあげることで、SFを「わかる」ものに置き換えてみよう、という試みだった……のかな、あえて分析すれば。
 今後もSFミステリを書く予定はありますし、もっと普通のミステリのふりをしたミステリを書くかもしれません。とかいうと、普通のミステリってなんだ、とか言われてしまいそうですが……
[かない]  《コールド・ゲヘナ》の世界では、ほ乳類としては人類と猫族しか生き残ってないのですが、どうしてこの二つの種族だけが生き残っているのでしょうか。
[三雲]  とりあえず人類はしぶといから生き残るとして、猫に関しては細々と生き残っていた人類が、コンパニオン・アニマルとして飼い続けていたからという設定になってます。猫の代わりに生き残ったのが、カバやカモノハシだったりしたら、たぶんもっとシュールな物語が展開されていたでしょうね。
[かない]  シークマンから喪われた武術を教わった人物がバーンとルーファスのほかにもう一人いるのが判明しましたが、彼(彼女?)が今後登場する予定はあるのでしょうか?
[三雲]  本人が出るかどうかは別として、物語にはからんでくる、と思います。ひょっとしたら短篇のほうでやるかも。
[かすみ]
[かない]
[雀部]
 色々と質問に答えていただきありがとうございました。
 これからも応援しますので、シリーズものにSFミステリにと幅広いご活躍をお願いします。
[三雲]  どうもありがとうございました。
 次はもっとおもしろい作品をかけるようにがんばります。

[三雲岳斗]
 '70年大分県生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒。
 '98年に電撃ゲーム小説大賞銀賞を『コールド・ゲヘナ』で受賞。
 '99年に第一回日本SF新人賞を『M.G.H.』で受賞。
 2000年に『アース・リバース』で第五回スニーカー大賞特別賞受賞。
 最近のマイブームは、スポーツ観戦と四コマ漫画。
 ホームページは http://www3.plala.or.jp/gm/

[雀部]
 48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。
 ホームページは、http://www.sasabe.com/

[かすみ]
 デザイナとプログラマの間を右往左往の求職中人間。広く浅く本を読みふけり、2000年に蔵書数2000冊突破。三雲先生の非公式ファンサイト運営中、
 アドレスは http://urawa.cool.ne.jp/kasumi565/unp/main.htm

[かない理己]
 三雲作品(SFミステリ)に出会ってから理系を勉強中・・・という文系女子大生。
 三雲作品のイラストを描いて雑誌に投稿するなど小さな布教活動をしている(苦笑)


トップ読切短編連載長編コラム
ブックレビュー著者インタビュー連載マンガBBS編集部日記
著作権プライバシーポリシーサイトマップ