雀部 |
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なるほど。そこらあたりのお考えは、読ませていただいた対談などでもおっしゃられていましたね。読者が各々感じ取るものだと。
小説家では、コクトーが大好きだとお聞きしたのですが、お好きなSF作家とかはいらっしゃいますか。レムなんかも読まれていらっしゃるようですが。 |
高野 |
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レムいいですねー! 好きです。深読みをすれば何処まででも深くなるので、なかなか気軽に読み返すというわけにもいかないですが。中高生の頃は(意外なことに)アーサー・C・クラークをけっこう読んでました。もっとも、一番気に入った作品が『楽園の泉』だったりするあたり、「お里が知れる」という感じですが(笑)。フィリップ・K・ディックも好きですが、長編より短編のほうが好みです。 |
雀部 |
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レムといえば、SFマガジンの今月号(04/01)がレムの小特集ですね。国書刊行会からレム・コレクション(6巻)も出たようだし、再評価されているんでしょうね。高野先生も、音楽がテーマのレムばりのSFをお書きになる予定はございませんか。 |
高野 |
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う〜ん。どうでしょう? 結果として「レム系になる」というのはあり得ないことではないですが、「レムばり」を目指して書く、それを目的として書くということはあり得ないですね。結果として読者にSFと認識されることはあり得ても、よーしSFを書くぞーとは思わないのと同じです。 |
雀部 |
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いやそれはその通りなんです。言い方がまずかったですね、レム氏のように哲学的でなおかつSFファンの琴線に触れて面白く読める音楽SFを期待しております。「ぎぇ〜っ。宇宙における音楽とは、実はこういうものだったのか!ふ、深い!」と感嘆したいんです(笑) |
高野 |
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それからSFというよりはスリップ・ストリーム系というんでしょうか、ジョン・クロウリーが大好きです。国内ものに関しては、影響を受けることを恐れる気持ちがあるというか、「ああ、自分もこういうふうにしなきゃ売れないのかな」等と考えてしまいがちなので、なかなか読めないんです。中学生の頃は星新一をかなり読みましたが(でもショート・ショートの技法は全然身についてませんが(笑))。 |
雀部 |
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うっ、ジョン・クロウリー。『リトル、ビッグ』は読み通すのが大変で、SF者にはしんどい作品でした(汗)
『エヂプト』も96年には刊行されるはずだったんだけど、どうなってるんだろ。 |
高野 |
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以前は時々早川書房の方にどうなってるのかとお聞きしてたんですが、だんだん雰囲気が重くなってきたので(笑)、最近は聞いてません。どうなっちゃったんでしょうね……(遠い目) |
雀部 |
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《夢の文学館》シリーズがよほど売れなかったとか(爆)
ウィリスの『ドゥームズデイ・ブック』は文庫に落ちましたが。 |
高野 |
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国内の最近のものでは、認めたくない!と思いつつ、「特殊作家」としての牧野修が好きです。ごく最近のエンターテイメント色の強いものは、残念ながら好みではないのですが。 |
雀部 |
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牧野先生ですか、ちょっと意外だなぁ。
個人的には、コードウェイナー・スミス氏の著作との共通点を感じました。
特に初期の短編、『第81Q戦争』あたりです。また『アイオーン』の教会組織は、人類補完機構と近しいものを感じたりしたのですが。 |
高野 |
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うわ〜、すみません。どれも知りません(大汗)。インタビューって、思わぬところで無知をさらけ出すハメになったりするので、コワイですね(笑)。 |
雀部 |
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そういうつもりは(笑) 単に私が好きな作家だもんで (^_^ゞポリポリ
人類補完機構は、アニメの『エヴァンゲリオン』で名前だけは有名になりましたけど。そういえば、アニメはいかがですか。『ナウシカ』の巨神兵に似た巨人も出てきますが。 |
高野 |
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ナウシカはテレビで放送された時などに人並みには見ていますが、特別な思い入れとかはないですね。まあ、破壊する巨人というイメージはナウシカ独特のものではなくて、ユング的に言えば、人類が共通に持つアーキタイプの一つですから、別に珍しくもなんともないと思います。『アイオーン』のあれは、私としてはギリシャ神話の、蟻から作られた人造人間でトロイア戦争の際に戦力となったミュルミドン人のイメージで書いています。 |
雀部 |
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なるほど。私は先に『ナウシカ』のほうを見ているので、そのイメージが刷り込まれちゃってるようです(汗)
SFマガジン'98年12月号の大森望さんのインタビューで、この連作を開始されるにあたって「キース・ロバーツの『パヴァーヌ』に近いかもしれない」とのご発言をされていらっしゃいますが、そう言われれば設定的には似てますね。
SFの分野でもっと近しいというと、やはり'60年にヒューゴー賞を獲ったウォルター・ミラー・ジュニアの『黙示録3174年』でしょうね。ホロコースト後の西暦3000年のアメリカを舞台に、理想主義的なカトリックの修道院と修道士を描いていることもあり、雰囲気的にもよく似たものを感じました。『アイオーン』は、そういう中世の教会勢力のありようが濃密に描かれていて、外国の著名作家(ウンベルト・エーコの書いたSFとか紹介されると)の作品の翻訳ですと言われたら信じちゃいますよ。
そうとう下調べとか取材はされたのでしょうか。 |
高野 |
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いきなりウンベルト・エーコが引き合いに出されるとかえってあせりますが(笑)。 |
雀部 |
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あ、すみません。SF以外の本はあまり読まないので、他に思いつく作家がいなかったんです(爆) |
高野 |
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調べものは確かにやりまくりました。でも、もともと学部生の頃は中世史が専門だったので、資料はけっこうありましたし、どのへんをどう調べれば必要なものが出てくるか、どの資料が信頼できるかということはそこそこ分かっていたので何とかなりました(汗)。取材は『アイオーン』のために何処かに行ったということはありませんが、ヨーロッパに行くと必ず教会や古い建物は見に行っているので、そういう「いつ使うか分からないけどとりあえず蓄積」した経験が役に立ちました。 |
雀部 |
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やはり。そういう蓄積がないと、細部に神は宿りませんよねぇ。
お茶の水大の人文研究科の修士課程を修了されたということなのですが、どういう研究のされ方をしてらしたのかお教えいただけませんか。高野先生の作品は分類するとすればファンタジー風味付けの歴史改変SFなんでしょうけど、物語の進め方が理論的で、SF者にとって取っつきやすいし面白いと感じるんですよ。 |
高野 |
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り、理論的……(うっとり)。あ、失礼しました。ありがとうございます(笑)。
理論的にしよう、と思ってやっているわけではありませんが、ファンタジックなアイディアをやるにしても、それなりに土台を固く作っておかないとやりにくいですね。修士論文の準備が進むにつれて長編が書けるようになっていったので、理論的に論文を書く訓練は無駄ではなかったと思います。無駄ではなかったと信じたい(笑)。
大学院ではフランス革命史を専攻していました。フランス革命ネタの小説も考えていますが、あまりに構想が大き過ぎてまだ手がつけられません。 |
雀部 |
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理論的じゃない論文だと、読む教授が大変でしょう。 |
高野 |
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理論的じゃない論文なんかいくらでもありますよ〜。特に文系は(笑)。 |
雀部 |
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あらま、そうなんですか(爆)
もうひとつ、『アイオーン』では、科学を悪とするキリスト教会が描かれていますよね。キリスト教には相当お詳しいようですが、信者であられるとかはおありでしょうか? |
高野 |
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自称無所属無党派隠れキリシタンです(笑)。いや、やっぱりそれなりに歴史を知ってしまうと、人間が作った宗派、派閥の何処かに「ここがいい!」と意識的に判断して属するのは難しいです。 |
雀部 |
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『アイオーン』のなかで特に好きなのは「慈悲深く慈悲あまねきアッラーの御名において」と「太古の王、過去の王にして未来の王」の二篇なんです。後書きで「太古……」は、言わずと知れたアーサー王伝説が下敷きになっていると書かれてましたが「慈悲……」のほうにもそれを感じました。タンホイザーとヴェーヌス夫人の物語なんですが、どうなんでしょうか? |
高野 |
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「慈悲……」のほうは、あとがきでもちょっと触れましたが、パリで会った自称作家のおじさんの妄想(?)が元ネタです。自分を捨てていった恋人との「前世からの運命」という考えに耽溺しちゃってて……パトリス・ルコントの映画のように哀愁が漂ってました(笑)。いや笑っちゃいけなんでしょうけど。申し訳ないけど格好のネタでした。あのおじさん、今はどうしているのやら〜。 |
雀部 |
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東洋の国で、おじさんがモデルになった短編があると知ったら驚かれることでしょうね。それとも、当然だと思ったりして(笑) |
藁品 |
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ところで、SFといえば科学文明の発達した未来が舞台…というものが多いですが、この『アイオーン』は、科学文明が崩れ去った後の世界が舞台です。
物語の世界では、科学は「物質による悪」として考えられていますが、高野さんご自身は、「科学」というものについてどうお考えですか?
否定的、肯定的…いろんなご意見をうかがいたいです。 |
高野 |
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科学自体に善も悪もないと思っています。それを「どう使うか」が問題ですよね。
もっとも、「善とは何か?」「悪とは何か?」という根本的な問題はまた別にあると思いますが。 |
藁品 |
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SFの中ではどうしても「科学」というものを扱っていくと思うんですよ。
「サイエンス・フィクション」なわけですし。
その中で、物語の基調として、またはそこに描かれる世界のコモンセンスとして「科学」または「科学技術」というものを、「善なるもの」として捉えるのか「悪しきもの」として捉えているのかによって、物語のカラーががらっと変わっていくと思うのですが。
科学を「善なるもの」として捉えていくと、ユートピア論みたいになってしまいそうだし「悪しきもの」として単純に「自然のままがもっとも良い」というのではSFにならないし・・・
やはりその辺の矛盾を描いていくのが物語に深みをあたえるのでしょうか。 |
高野 |
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そうですね。私はマイク・レズニックの『キリンヤガ』もオールタイム・ベスト的に好きなんですが、これもそういうテーマですよね。憧れますけど、これほどのレヴェルのものはそうそう書けないですよね(嘆)。 |
雀部 |
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『キリンヤガ』は、日本人の好みに合致した素晴らしい連作短編ですね。
ブックレビューでも3年前に取り上げました。
そういえば『アイオーン』の中世の雰囲気と、『キリンヤガ』の科学的なことは呪術師のところでストップさせて、昔ながらの部族の生活を守るというのは、似ているような気がします。藁品さんのおっしゃる、いわゆる文明社会と科学を捨てた社会の対比というのは、SFの永遠のテーマの一つかもしれません。 |
藁品 |
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ちなみにこの現代社会は、科学を善にも悪にも乱発乱用している時代といえますね。
ここから何が生まれていくのか・・・。 |
高野 |
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それはハードSFの人にお任せしましょう(笑)。 |
向井 |
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そういえば以前に、あまり安易にSF作家と呼ばれたくない、といったような発言をなさっていた記憶があるのですが、『アイオーン』に関して、SFを書こうと意識して書かれたのでしょうか? もしそうだとしたら、書き手側の意識の差のようなものがあったかどうかという点についてお聞きしたいです。
ジャンルを意識しないとすると、ここまでSFっぽい作品に「たまたま」なっていたということでしょうか? それとも、「もっとSFっぽくしてほしい」とかいった類いのことを言われたりしたんでしょうか。 |
高野 |
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別に、SF作家じゃなくてミステリ作家とか純文学作家とかの肩書きが欲しい、という意味ではありません(笑)。もちろん、読み手に対して「『アイオーン』や『ムジカ・マキーナ』をSFと呼ぶな!」などと言うつもりもありません。SFに限らず、ナントカ作家と但し書きをつけられること自体がイヤなんですよね。なんか、外から扉を閉められて鍵をかけられているような気持ちになりますし。
『アイオーン』も「SFをこそ書くべし!」と決意して書いたわけではありません。
ただ、連載の場がSFマガジンだったので、中世の空に人工衛星を描いたら「何のことだか分からない」などと言われたりしないかな、なんていう心配をしないで、やりたいことをやれたのは確かです。読者さんから「SFらしいSF」をもっと読みたい、というご要望もいただいていましたし、ちょうどよかったかもしれません。 |
向井 |
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高野さんの作品だと『架空の王国』はちょっと異質というか、他と違うような印象を持っているんですが、何か心境の変化みたいなものがあったんでしょうか?
また、この作品は一種のミステリだと思いますが、ミステリというジャンルについてはどのようにお考えでしょうか? |
高野 |
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実は『架空の王国』は、私にとっては初めての長編だったんです。もっとも、出版したヴァージョンは、原型をとどめないほど改稿したものですが。院生の頃に『架空の王国』初期ヴァージョンを書く→自分にも長編が書けるかもしれないという手ごたえを得る→『ムジカ・マキーナ』を書く→テビュー→『カント・アンジェリコ』→『架空の王国』の出版ヴァージョン、という順序ですが、実はこの間に何度も『架空の王国』は改訂していたんです。というわけなので、別に『カント・アンジェリコ』の後に何かが変わった、というわけではないと思います。
ミステリは大好きですよ〜(笑)。『架空の王国』に限らず、どの作品も、謎解き的な骨組みを意識していますし。私にとっては、そうするのが一番、話を進めやすいんですよね(笑)。まあ、中高生の頃に読んだもののうち、量だけを問題にするのなら、クラークやアシモフよりエラリー・クィーンやアガサ・クリスティなどのほうがはるかに多かったです。今現在書いている長編も、全然SFではなくてミステリです。歴史ネタのミステリですね。 |
雀部 |
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歴史改変SFということはないですよね?(笑)
ミステリとSFは、相性が良いのでこれからも謎解き的な骨組みを持ったSFをぜひお願いします。 |
藁品 |
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貴重なお話をうかがえて、とても感激でした。本当にどうも有難うございました。
これからも楽しみに読ませていただきます。どうぞがんばってください。 |
高野 |
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近刊の情報ですが、来月発売の異形コレクション28『アジアン怪綺』に、「空忘の鉢」という一篇で参加しております。異形に寄稿したものの中ではもっとも長いです。しかしこれ……ホラーかなぁ…… |
一同 |
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それは楽しみです。ぜひ読ませてもらいます。 |