雀部 |
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今回の著者インタビューは、先々月(9/1)に角川書店から『さよなら』を出された森青花先生です。
森先生、前回の『BH85』に引き続きよろしくお願いします。
インタビュアーとしては、もう一人、本誌編集長−卓−も参加させていただきます。 |
卓 |
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ファン待望の長編書き下ろしの刊行おめでとうございます。著者インタビューに参加するのは久しぶりで、ちょっと緊張してます。お手柔らかに。 |
雀部 |
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単行本としては前作と3年も間があきましたが、いかがされていたのでしょうか。 |
森 |
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もし待っていらした方がいたとしたら、ごめんなさい。
一年間は、入院とリハビリに消えました。
もちろんその前にも長編を書いてはボツられていました(爆)。 |
雀部 |
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SFマガジン'01/2月号に掲載の「銀の横綱」を読んで、続編をちょっと楽しみにしていたのですが。あの短編には、続きはないのですか。 |
森 |
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一応、書いたものはあるのですが、ボツられて、お蔵入りです。かなしい。
でもああいうのは一発芸ですから。 |
雀部 |
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ありゃ残念。森先生らしいユーモア溢れる怪作(失礼)で大好きなんです。
現実の関取でご贔屓の方はいらっしゃいますか? |
森 |
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はい。魁皇関です。
角界一の腕力(かいなちから)を誇りながら、実力横綱なのに、いっつも肝心なときに心弱くて負けるひと。魅力的です。
ちなみに、『クリスタルサイレンス』の藤崎慎吾氏も大の魁皇ファンです。
ときどき、横綱にはなってほしくないねえ、ソッコー引退だし、とかメールし合います。 |
雀部 |
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それはちょっと屈折してますね〜(笑)
相撲ファン、力士ファン(笑)で有名な女性作家というと、私の郷土岡山出身の岩井(『ぼっけえ、きょうてえ』)志麻子さんがいらっしゃいますが、森先生も格闘技ファンであられるとのことなんですが、大相撲以外ではどんな格闘技がお好きなんでしょうか。 |
森 |
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総合格闘技、特にプライドがひいきです。K1も観ますが。
やっぱりプライド。ノゲイラ最強!
エメヒョー強いぞ。シウヴァえらい。
吉田がんばれ(マニアックご容赦)。
でも、ミルコ・クロコップの強さは別格(こないだノゲに負けたけど)
プライドは東京ドームでもさいアリ(さいたまスーパーアリーナ)でもチケット買って実地に観戦し続けるマニアです。 |
雀部 |
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うちでは次男が格闘技ファンで、帰省すると良くスカパーで観戦してます。
大病をされたご経験と、今回の『さよなら』のテーマと関係がおありでしょうか。 |
森 |
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直接的にはさほど関係はないかと思います。ただ、病気をしたことで「死」がとても身近なものと感じられるようになりました。クモ膜下出血で突然意識不明になり、気づいたらICU。その時は山場は越していたのですね。手術が終わっていたのですから。ダイイングレベルまでいったのに、「臨死体験」の一つもしなかったのが少し悔しい。でも、ブレイカーが落ちるように意識が落ちてしまっては、脳だって臨死体験のつくりようがないのだと納得しましたが。
ただ「死」はそれほど忌むべきものでもない、「自然」だと考えるようになりました。 |
雀部 |
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クモ膜下出血は突然来るようですからねぇ。ご回復されたようで良かったです。 |
卓 |
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暗くなりがちなテーマに真っ正面から取り組みながらも深刻になりすぎず、すっと心にしみ込んでくるようなお話で、落語に通じるようないい意味での「軽み」を感じるんですが、意識しておられますか? |
森 |
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ほとんど意識はしていません。落語は好きでよく聴きますが。
ただフツウに書いても「何かおかしい」とか言われます。
おかしいですか? |
卓 |
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そうですね(笑)、いやつまり、peculiar
というのではなく humorous という意味で。日本語だと「可笑しい」ですかね。もっと言っちゃうと、ユーモアというよりもドイツ語のフモールに近い感じ。
とにかく森さんの作品を読んでいると文章のはしばしでにやっとさせられてしまう。こういうテキストには日本語ではなかなかお目にかかれません。貴重な才能だと思います。
落語は私も好きなんですが、作品の登場人物が決してスーパーマンやワンダーウーマンではなく、等身大の、どこにでもいそうな人々(でも少しずつずれている)なのも落語的かな。 |
森 |
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落語の日本人の財産だと思います。
おそろしく長い時間をかけて名人と呼ばれるひとたちが、改作に改作を重ねてきているのですから、面白くないはずがない。 |
卓 |
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各章のタイトルが人名というスタイルは今後も続けられる予定ですか? |
森 |
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いえ。これは今回限りです。次回作は各章ごとにエプグラフを付ける予定です。次回は恋の話です。哀切で美しい。少々SFテイストも入っています。
いつ完成するか不明なのですが(何せ書くのが遅くて)、無事刊行できましたら、またよろしくお願いいたします。 |
卓 |
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おお、ラブストーリー。SFテイストのラブストーリーというと『アルジャーノンに花束を』を連想してしまいますが。哀切な話かあ。きっと読んでて泣いちゃうだろうな。 |
雀部 |
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梶尾真治先生を引き合いに出すまでもなく、SFとラブストーリーは相性が良いですから楽しみにしております。 |
卓 |
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ちょっとネタばらし気味になりますが、乾燥保存された死体にときおり意識が戻って来るという設定は、やはりエジプトとかのミイラからの連想ですか?
私はディックの『ユービック』だったかな、half lifeが出てきたのは、ああいったものを連想したんですが。あと中有とかシドパ・バルドっていうのかな、生と死の境界領域みたいなもの。いずれにしても根底にあるのは非―西洋的な死生観ですよね。 |
雀部 |
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私は、マヤ文明遺跡から出土した棺の中のミイラが、現実の時間とは異なる時間にたゆとい宇宙を夢想するという小松左京先生の「眠りと旅と夢」(『アメリカの壁』所載)を連想しました。まあ海外作品でも、ちょっとマッドなラファティ氏の「九百人のお祖母さん」というのもありますが(笑) |
森 |
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実は、私は「死んだら終わり」という現実主義者です。
頭ではわかっていても、さみしいじゃないですか。
だから、夢をみます。はかない夢を。
輪廻転生がほんとにあるなら、今生きてる人間の前世は絶対ミミズだと思っています。だってミミズには罪も業もないのです。 |
雀部 |
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ミミズですか。確かに罪も業もないですけど(爆) |
森 |
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輪廻転生もなく、死=消滅の世界で、どうにか、生を意味あるものにする夢は……、たとえば恋であり、死んだら心の中にいくという考えだと思うのです。 |
雀部 |
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あ〜、私も「死んだら終わり」という唯物主義なので、そのお考えは良く分かります。自分が死んだ後も大した変化もなく世界は続いていくというのは誠に癪に障ります(笑)
死んだら心の中にいくというアイデアは、素敵ですよね。乾燥保存された死体が心の中に話しかけてくるというのは、実は生きている人の心の働きだけでも説明がつきますしね。死んだ人の話にも思えるし、また残された人が、心のけりを付ける話にも思えますよね。
『世界の中心で、愛をさけぶ』がベストセラーですが、『さよなら』は、もうちょっと年齢が上の層にもお薦めできる愛を語る書だと思います。
さて、次作の予定とか執筆中の作品がございましたらお教え下さいませ。 |
森 |
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次回作は心中ものを書いています。せつなく哀しい愛の物語です。
でも心中ものって近松とか名作が山ほどあるので大変。
あとは、超バカSFの構想をたてています。
BBCのドラマ「宇宙船レッドドワーフ号」みたいな、惜しげもなくすごいアイデアをばんばんいれた超おバカSF(当然宇宙船もの)を構想してはほくそえんでいます。 |
雀部 |
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それもぜひ読みたいです。特に超バカSFは、ぜひ実現させて下さい(笑) |